オープンして間もないカフェに行ってきた。前々から気になっていた場所だ。

渋谷駅から徒歩5分ほどのところにあるビルの2階。大きな窓からこぼれるやわらかな明かり。階段をのぼった先でまず目を引くのは、色とりどりの美味しそうなケーキや焼き菓子が並ぶショーケース。扉を開けると、頬にふれる暖かさが心地よい。

「いらっしゃいませ」

小柄で、かわいらしい笑顔の女性スタッフが迎えてくれた。

「おひとり様ですか?」
「はい」

「おタバコは?」

「吸いません」

ここまでは慣れたやりとり。だが、次のひとことは想定外だった。

「また、いらしてくださったんですね!」

大きな瞳で嬉々と見つめられ、こちらはもうタジタジ。いやー驚いた。初めて訪れたカフェで、思わぬ歓迎を受けてしまった。

*      *      *

カフェイメージ写真小1別位置世の中には、自分にそっくりな人間が3人いるという。“似ている”というレベルを通り越して“うりふたつ”な、まさに顔だけ見ると双子と見紛うほどの人間が3人も存在する。まあ何ら確証のない都市伝説だけれども――いわゆるドッペルゲンガーというやつだ。この話を聞いても別段「よし!そいつらを捜しに行こう!」とはならないが、何かの機会にふと思い出しては、まだ見ぬそっくりさんのことをぼんやり考えてしまう。

実は、過去に二度ほど同じ経験がある。

一度目は大学時代。ある日、他学部の友人がニヤニヤした表情で声をかけてきた。その前日の午後、男性とベンチに座って話している私を見かけたのだという。寝耳に水だった。なぜならその日のその時間、私は大学の構内にはいなかったからだ。しかし友人は絶対に私だったと言い張った。結局、着ていた服の色の記憶が曖昧だったため、よく分からないままその場はお開きとなった。

二度目は社会人一年目。インテリア家具のお店で働いていたある日、レジ横のカウンターでパソコンを使っていると、スーツ姿の恰幅のいい男性が、驚いた様子で話しかけてきた。

「やあ君、久し振りだね、この業界に転職したのかい?」

何が何だかさっぱり分からなかった私は、人違いではないかということを素直に話し、その女性のことを詳しく訊いてみた。建築資材メーカーの社長だという男性は、半年ほど前まで出入りしていた取引先の受付の女性が私とうりふたつで、髪形や話し方、仕草まで似ていると興奮気味に話してくれた。よほど驚いたらしく、私のネームプレートを覗き込むと「ああ、そういえば名字が違ったよ」と笑いながら去って行った。

自分にそっくりな人。怖いけれど会ってみたい気もする。一体どんな人生を歩んでいるのだろう。一緒にいた男性とは、どうなったのだろうか。名字の違う受付嬢の「私」は、結婚しているのだろうか。

今日まで、山あり谷あり、エベレストあり深海ありの人生だったけれど、後悔はしていない。その時々で、私なりに決断してきた。それでも、つい考えてしまう。

もしあの時、別の道を選択していたら――
友人が見た「私」が、社長さんが見た「私」が、別の人生を歩んだ「私」自身だとしたら…。

*      *      *

会計を済ませて扉を開けようとしたとき、「もうひとりの私」と見間違えたスタッフさんが駆け寄ってきた。

「先ほどは失礼いたしました。また是非いらしてくださいね」

失礼なんかじゃないよと心の中でつぶやきながら、その人と、このカフェと、なんだか少し仲良くなれた気がして嬉しくなった。

-udagawa- SUZU CAFE
● 東京都渋谷区宇田川町3-10 フィエスタ渋谷2F
● Call 03-5457-1700
● 営業時間 11:30~27:00
● 席数 60席


eRiKo
えりこ/唄い人、奏で人、ときどきエッセイスト。埼玉県出身、在住。C大学FPS卒。某法律事務所に勤務。恵比寿・渋谷への出没率、高し。カフェ・古着屋・インテリアショップなどで見かける可能性大。黒猫と黒柴と戯れながらの実家暮らし。