京都と聞いて多くの人が想像するのは、京都市内、もっといえば京都駅より北の市内のことではないでしょうか。実際、京都と聞いて京都府、すなわち丹後、丹波、そして山城南を思い浮かべる人は少数ではないかと思います。

このような現象は、神奈川県と横浜、愛知県と名古屋などにもあるでしょうが、特に京都というまちではその違いを実感させられることが多いように思います。その典型例として、京都の旧市街にある独特の地名表現があげられます。
DSC03786京都の旧市街の地名は独特のものが多いことで有名です。たとえば、「太秦(うずまさ)」「釜座(かまんざ)」「万里小路(までのこうじ)」など。これらの正確な発音は、市内に住んだことのない人では難しいように思いますが、京都の場合、名称を正確に発音しないと、相手に通じないこともあるほどです。

京都の(旧市街の)地名に着目するにあたって触れなければならないのは、独特の通りによる地名の表記です。各住所は一般的に「町名+番地」で存在しているのですが、それ以上に目に付くのが「通り名」による表記です。京都の街路は整然と碁盤目になっており、それぞれに通り名があり、その通り名によって場所が説明されます。

たとえば、「中京区釜座通丸太町上る梅屋町」であれば、「釜座通と丸太町通の交差点を、丸太町通りを横切って北へ進んだところの梅屋町」を意味します。横切る通り名が後ろにきて、通り名を省略して表現されています。また、先の例のように北へゆくのは「アガル(上る)」、南へは「サガル(下る)」、東へゆくのは「ヒガシイル(東入る)」、西へは「ニシイル(西入る)」と表現されています。

これらの地名や通り名の読み方などを間違えてしまうと、京都の場合、「この人は京都の人ではない」と思われてしまいがちです。

以前、私は「下る(サガル)」を「くだる」と発音したことがあります。そのとき、話相手に「君は京都の人じゃないですね」と言われたことがあります。この反応に、京都の人がそれ以外の人に敏感であることがよく表れていると思います。

ちなみに、上記で例にあげた梅屋町は、地理的に離れた場所に同名の町名が他に2カ所存在し、3つそれぞれ別の郵便番号を持っています。同じ梅屋町でも位置が全然違うわけです。現代的な住所表記をする場合、通り名を省略するのが一般的であるため、「中京区梅屋町+番地」と表現されますが、これだけでは、どこの梅屋町なのかわからなくなってしまいます。そのため、行政では、一般的な住所表記に加えて、今でも通り名を補記などしているのです(面倒なことなのはいうまでもありません)。

合理性や効率性の点から見れば、このような旧市街時代からの表記は、不便でもあります。しかし、観光産業である程度の雇用を生み出している京都においては、こういった京都独特のものを残していく必要があります。観光資源とは、他にはない、非日常を提供できるかにかかっているからです。

このように、地名だけ見ても独自性を色濃く残す京都。もちろん、ここから京都的中華思想といえるものも見え隠れしたりするのですが…。京都観光に来られた際は、マニアックかもしれませんが、この地名と通り名に注目してみてはいかがでしょうか。

なお、写真に掲載しているのは通り名による住所が表記されている、昔ながらの仁丹の看板です(町名が小さいのに注目)。現在では貴重になりつつあるだけに、なんとか残していきたいところです。

【参照】仁丹の「町名表示板」、保存を 市内中心部 15年で4割減(京都新聞)


こばよし
こばよし/京都府宇治市で育つ。都内の大学院卒業後、現在京都府内で勤める。京都出身であるが、京都市内の育ちではなく、厳密な意味で「京都人」ではない。そのため京都への思いは複雑らしい。