デザインアイコンはじめまして。初出稿でいきなり編集長から「タブレット端末(のデザイン)」という無茶なお題を頂戴しました。読者の皆さんの方がよほど詳しいと思いながら、今回は恥を忍んで、これらについて感じていることを雑多に述べさせて頂きます。

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グラフィックデザインに飲みこまれるプロダクトデザイン

「プロダクトデザインはこれからどんどんグラフィックデザインに寄っていく」
私が学生だった2006年の頃、同じくデザイナーを志していた同級生の友人が言った言葉です。
つまり彼は、「立体をより立体的に見せる従来のプロダクトデザインの常識が変わりつつあり、薄さへの追求の中で立体を平面っぽく見せるデザインが流行りつつある」と言いたかったのです。

当時その兆候に私自身は気づいてなかったのですが、今の携帯端末のデザインを見ると、その指摘の正当性は火を見るより明らかですよね。ご周知の通り、スマフォと電子書籍端末で先駆けたリンゴ君の製品は、絶望的なまでに平面的で、文字入力は全てソフトキーが担い、ほとんどの操作がタッチパネル上を指でなぞるだけ、画面外に出ているハードキーはせいぜいホームボタン、ボリュームボタン、ロックキーくらいになりました。(しかもホームボタンは凹んでます。)これらのリリースは、デザイン業界にはドリフでいう床が抜ける位の衝撃をもって迎えられました。プロダクトデザイン側は「は?俺たちの仕事がなくなるじゃん」で、GUIデザイン(画面の中のデザイン)側は「は?俺たちの仕事が劇的に増えるじゃん」です。その内情をこれから詳しく述べていきます。

それまでの携帯端末のプロダクトデザインと言えば、面をどう張ればかっこ良く見えるかとか、Rをどう廻せば薄く見えるかとか、ハードキーをどう処理すれば新しく見えるかとか、そういった細かいことをネチネチ追い込み苦しみ抜いた苦悶の塊がそのまま製品になっているようなものでした。それが「え?平面だけど。何が悪いの?」「R?もちろん単Rだよ。」「ハードキー?ははは、ないって(笑)」という感じです。でも実物を見てみると悔しいけどカッコいい。パラダイムシフトの瞬間っていうやつですよね。プロダクトデザインを教えている学校では必ずスケッチの授業があるのですが、「携帯電話をデザインしなさい」という題目に対して、造形力のない言わばデザイン初心者が一番最初に描いてきて講師にケチョンケチョンにされるデザインです。もちろん細かく見ていくとR取りのバランスやスイッチのフィーリングや精緻感に相当のこだわりが見えますが、「世の中なめてるでしょ」って言いたくなるくらいシンプルな造形ですよね。

また、GUIデザインにしてみれば、筐体(きょうたい)のデザインがあっさり薄味になり、ディスプレイ面積が表面のほとんどを占める中で、画面内のデザインが商品性を大きく左右することになり、良くも悪くも表舞台に上がらざるを得ない状況になりました。数年前までは3インチLCDのモノクロディスプレイ上でドット絵のキャラクターを泳がせていれば良かったのですが、リンゴ君の製品はFlashをベースとした描画によるインタラクティブな演出と細部に渡るまでの心憎いアイデアに溢れ、さらにはアプリ開発をオープンソースによってユーザーに委ねる方法で、コンテンツ生産において爆発的な量を生み出してしまいました。開発のプラットフォームと仕組みを変えられたので、追随する側の大変さたるや、想像に難くないと思います。



日本のメーカーがiphoneを生み出せない理由

というわけで、携帯端末のデザイントレンドはiphoneとipadの登場を境に完全に様変わりしました。デザインを長い系譜で見た時に、iphone前後で語られるのは確実と言っていいでしょう。で、日本の家電メーカーが打倒iphone&ipadを掲げて必死で開発していると思いますが、そもそもソニーを除いてはimacとipodで惨敗を喫しているので、もはやトラウマになっている向きもあるのではないかと私は勝手に勘ぐっています。

また、日本のメーカーの開発思想からすると、iphoneのようなものを出すのは相当に難しいような気がします。というのも、日本のメーカーはスペックの追求のような数字にすがる開発は得意ですが、GUI開発のような正解のないものにはめっぽう弱いからです。「これで行くんだ!」という強い意見と責任を個人が背負うような社会ではないですからね。デザインの現場では特にそうです。大半の人がいいと認めるデザインでも1つのネガティブな意見でつぶれてしまう。いいアイデアがいっぱい転がっているのに、いつまで経っても選べない。そうこうしているうちに温めていたものが米国製で出ちゃったり。

いずれにしても、ドコモが今冬満を持して出してきたスマフォが韓国製ということに顎が外れそうになった人も多いことでしょう。私個人としてはやはり日本の家電メーカーが頑張って、いいデザインの商品を出してほしいと思っています。imacとipod touchを所有しながら、2周遅れでのiphone乗り換えとapple TVを狙っている人間の言うことかとは思いますが(笑)。「デザイナーズ携帯」で有名デザイナーに頼る従来の手法もいいですが(そもそもインハウスデザイナーに失礼な言葉だな)、インハウスデザイナーがエンジニアと二人三脚でとことん突き詰めていって、革新的な商品を生み出すことを期待しています。これからも同業界、隣の畑の人間としてこの「携帯端末の乱」を見守っていくつもりです。


ヤマモト
やまもと/1982年生まれ。某自動車部品メーカーにインハウスデザイナーとして勤務。インパネにくっつくメーターやらナビやらエアコンパネルやらをこねこねしながら、デザインみたいなことをしている。