映画アイコン皆さんこんにちは。このたび、関西在住の「乗り鉄」という属性が評価され、阪急電車について書くことになった。適任者が他にいなかったのだろうか、などと編集長の前ではつぶやけるわけもなく(笑)。そういうわけで、どうぞお手柔らかに―。
阪急電車 (幻冬舎文庫)阪急電車 片道15分の奇跡 OFFICIAL FILM BOOK (TOKYO NEWS MOOK 226号)

「阪急電車」と聞いて、あなたは何を思うだろうか?タカラヅカ、ターミナルデパート、沿線開発に沿線大学誘致、○号線というホーム名、ニシキタのダイヤモンドクロス、阪急そば、小林一三…うん、わかっている。このようなウンチクの披露は醜い頂上決戦を招くだけで、所詮wikipediaのお飾り程度にしかならない。だからここでは詳しくは書かない。詳しく知りたい方はこちらを読んでほしい。許してくれ、同士よ。

阪急電車は、宝塚・箕面・神戸・今津・伊丹・甲陽・京都・嵐山・千里線と、実に多様な、つまりあちこちに路線が張り巡らされており、かれこれ100年を超えて関西・近畿地方の住民の足となり続けている(ちなみに、創業記念日である10月19日は私の誕生日でもある。献品等はCAZANA編集部まで)。その歴史と沿線の広範さゆえに、路線によって乗客の傾向や醸し出している雰囲気は全く異なる。とは言え、まあここまでは他の私鉄と特徴に大きな違いはない。

ところがしかし。阪急電車はどの路線に乗っても「阪急電車」である、という点において他の鉄道とは決定的に異なる。

100年不変のパープルモノトーン車両が示すがごとく、どの路線に乗ってもこのブランドイメージは変わらない。阪急電車にとって、花は桜であり、乗客はさわやかな学生と人生を謳歌する貴婦人と高齢者とで構成されており、車窓に差し込む夕陽からは常に未来が投影されている、そんな感じだ。間違っても、花はキクやユリではなく、大量の汗を流す営業マンや、斜め30度にうつむく中高年は乗客として想定されていない(ように感じる)。当然、アバンチュールなドラマは、車両内では展開されないことになっている(えぇ、これは全力で阻止されねばならない)。乗客は阪急電車に「なる」のだろうか。うん。改めて観察してみると、ジベタリアン高校生も海岸線を走る私鉄の同志諸君と比べてお上品に感じるぞ。不思議だ。

で、このたび『阪急電車』なる映画が封切られるらしい。阪急電車の中でも、主に「今津線」を舞台としているようである。私は有川浩氏の同名小説をまだ読んでないので、どのような映像が流れるのかは想像できない。最速で50km/h程度しか出ていない、所要時間にしてわずか15分の7.7km区間にどのような「奇跡」が起こるのだろうか(原付の方が早いんじゃないか?と思われた諸賢もいるだろうが、それは口にしてはいけない。念のため)。

今津線を構成する要素は、沿線開発を進めたころから、タカラヅカや阪急百貨店ができたころから、関西学院大や神戸女学院大を誘致したころから…良きに付け悪しきに付け「昭和」なのかもしれない。そして、そうした昭和に「物語」を夢見た多くの日本人にとって、阪急今津線は小説や映画の題材として相応しい路線だと言えるのではないだろうか。たとえその途中、西宮スタジアムや阪神競馬場、ガーデンズといった、キャラの異なるアトラクション施設が作られようとも、やはり花は桜であり、旅立ちの陽射しが差し込む「阪急電車」であることに一点の曇りもないのだから。

それを踏まえて、ぜひとも、「競馬に負けて酒を吐き散らす赤鉛筆必携の中年が、車両でのた打ち回っている画」を映画に登場させてほしい。車両内がダメでも、せめて改札越しに見切れる程度でもかまわない。エキストラに困ることはないし、香川照之さんあたりが演じてくれればリアリティが出るぞ、きっと。…うん、わかっている。やっぱり主演は戸田恵梨香であり、中谷美紀であり、マルサを卒業してカドの取れた宮本信子なのである。何だかんだで楽しみだ(笑)。
(敬称略)


<文庫>阪急電車(著) 有川 浩【阪急電車】隣に座った女性は、よく行く図書館で見かけるあの人だった…。片道わずか15分のローカル線で起きる小さな奇跡の数々。乗り合わせただけの乗客の人生が少しずつ交差し、やがて希望の物語が紡がれる。恋の始まり、別れの兆し、途中下車―人数分のドラマを乗せた電車はどこまでもは続かない線路を走っていく。ほっこり胸キュンの傑作長篇小説。






せんせぃ
せんせい/某NPO法人事務局長。市民のよき「しゃべり相手」を目指して日々奮闘中。