ゴルゴ13 さいとうたかをセレクション
原発問題を扱ったゴルゴ13の収録話「二万五千年の荒野」に注目が集まっている。単に原発にゴルゴが弾を撃ち込むだけの話ではない。26年前の作品にも関わらず、恐ろしいほど今日の福島第一原発の惨状を予見していたかのようなストーリーなのである。


読んだ気にまではなれない「寸止め」あらすじ

ロサンゼルス北方80キロにあるヤーマス原子力発電所。作業員がクレーンを加熱器の逃がし弁にぶち当ててしまうトラブルが発生。バリー技師は3日間のチェック期間を要請するが、政治的事情を優先する無能所長に一蹴される。後日訪れたリーバマン会長にも運転開始の延期を直訴したバリーは、発電所から締め出されてしまう。

早速発電所内でトラブルが発生する。言わんこっちゃない。「補助建屋に放射能!排気口から、外部放射能モレ!」「風は!?風はどうなっている!?」「東南の風、毎秒5メートル!」「1時間で18キロ!炉が吹き飛んだら…3時間でロスに放射能雲が襲い掛かるってことだ!」「わずか3時間でロス600万市民をどうやって避難させるというのだ!?…」
電話するバリー。「ナップ署長、事故が起こった!放射能漏れだ!すぐに(ヤーマスの住民を)避難させてくれ!昼のパーティーに出席したものが汚染されている可能性は少ないが、全員チェックして汚染があれば、たっぷり冷水シャワーを使わせてくれ!軍にも連絡を頼む!」

その後、リーバマン会長が駐車場で死体となって発見される。額を撃ち抜かれたようだ(!?)。それを見たバリーは状況を理解、隔離されているゴルゴ13を訪ねた。「あんたの正体はわかっている。私は…あんたがリーバマン氏を射殺したのを目撃した人間を知っている。そのリーバマン殺しの目撃者の命とキャッシュで50万ドルを報酬に、あんたに仕事を頼みたい!」「…仕事の内容は?」「危険な仕事だ。放射能の漏れた原子炉の中で、少なくとも厚さ40ミリはあるステンレスバルブの一点を撃ち抜くんだ。建屋の中は蒸気が立ちこめて、的がよく見えないかもしれない。被曝の可能性もある…」

黙って仕事を引き受けるゴルゴ13。果たしてゴルゴ13はバルブを見事撃ち抜いて原子炉に冷却水を流しこむことができるのだろうか?


四半世紀前から指摘されていながら、何も変わっていなかったという事実

どうだろうか。これだけでも、驚くほど今日の福島第一原発の状況と酷似した内容であることがお分かり頂けるはずだ。

さらに圧巻なのは、その後の記者会見シーンである。事実を隠ぺいしようとする経営陣への怒りと、バリー技師の命懸けの行為に報いるため、制御部長のパーマーは真相をマスコミにぶちまける。作品が発表された当時は難しかっただろう問題提起や技術的な説明も、連日の原発報道を見てきた私たちにはもはやお馴染みの内容である。

原発と政治利権の絡み、原発メーカーと原発規制組織が表裏一体であることの弊害、エネルギー政策・原発政策の在り方、ヒューマン・エラーへの警鐘―。今日もなお解決されていない問題が30年近く前の作品で提示されていること自体驚きだが、さらに凄みを増しているのは、この作品がチェルノブイリ原発事故の2年前に発表されているという点である。

つまり、構造上の欠陥はその頃から何も変わっていなかったし、今日まで改善策を見出されてもいなかった。30年もの徹底した無関心でこの問題に平然としていられた精神と、それを可能にするほど人の心を蝕んでいた原発マネーという「麻薬」―これが今回の教訓として最も議論されるべきマクロ的問題なのであって、やれ東電の責任がどうだ、現政権の体たらくがどうだというミクロ発想のまま突き進んでいるマスメディアの論調にはもはや辟易せざるを得ない。

理論上“安全”でも防ぎきれない“不測の事態”。そして、それを今日まで見て見ぬふりをしてきた日本人。不幸にも現実化してしまったこの物語に学ぶべき点は多い。カザーナ編集部特別推奨。今後のわが国のエネルギー問題を再考する意味でも、是非一読をお勧めしたい。

なお、タイトル『2万5千年の荒野』とは、原子炉から排出されるプルトニウム239の半減期が2万5千年であることに由来している。


さえぐさ@カザーナ
1981年生まれ。本誌編集長。
Twitter ID: @_CAZANA