映画アイコン「東京に、原子力発電所を誘致する」―今になって都知事がそんなことを言い出したら大変なことになるだろうが、実は今から9年前の2002年、そのifを想定した日本映画がひっそりと公開されていたことをあなたはご存知だろうか?

【中古】◆DVD◆東京原発◆



日本映画界屈指の名優がズラリ

内容としては、国が推進する原発政策の抱える問題を痛烈に批判した社会派エンタテイメントだ。大胆な発想と派手なパフォーマンスでリーダーシップを発揮し、都民の支持を得てきたカリスマ都知事が、都庁の局長クラスを対象とした緊急会議を招集。「東京に原発を誘致する」という都知事の爆弾発言に動揺する都の幹部職員たち。反対派と推進派がコメディタッチで分かりやすくも熱い議論を戦わせる一方で、プルトニウム燃料を積んで福井へ向かうトラックを、あろうことか爆弾マニアの若者がハイジャック。そのトラックが、あれよあれよのうちに原発誘致問題で白熱する都庁に向かって走り出して…というのが大まかなあらすじだ。

原発問題に真っ向から挑み、それを見事な娯楽作品に仕立てることに成功したこの映画。今こそ再評価されるべき傑作だと思うが、実は当時から一部評論家や邦画マニアからは熱烈に支持されていた。


「その貧弱な予算規模から考えたら、相当よくできた映画だ。実にまっとうなエンタテイメントで、このような作品が邦画に現れたことはとても喜ばしい。」前田有一(映画評論家)



「背筋がうすら寒くなるような怖い事実ばかりでなく、東京に原発を誘致するメリットも示され、どちらの話にも“なるほど”と納得する推進派でも反対派でもない幹部職員たちは、こうした話題と基本的には無関心に生きている大多数の観客と同じ立場にある。」冨永由紀(PREMIERE)


しかも、これだけ扱いにくいテーマに挑戦していながら、この『東京原発』は巷に溢れる自主製作映画の類ではない。主演の役所広司をはじめ、段田安則、岸部一徳、田山涼成など日本映画界屈指の名優が総出演している一大エンターテイメント作品なのである。当たり前だが現在もTSUTAYAに行けば普通にDVDがレンタルできるし、購入もできる。


原発マネーの根の深さ

ところがこの『東京原発』は、公開当時から一部関係者や邦画マニアを除いて話題にすらならなかった。TVCMをやっていても全くおかしくないキャスティングなはずだが、少なくとも私の周りの人間は誰も見たことがない。調べてみると、当時の状況はもっと酷いものだったようだ。そもそも公開してくれる劇場が見つからず、あやうくお蔵入りするところまで追い詰められていたというのである。

確かに映画の前半部分を大胆に使って説明している原発論議の主張にはいささか誇張や煽りもあり、表現や数値の詳細について、諸手を上げて正しいと言う訳にはいかない。とはいえ、それは連日の原発報道で内情を理解した今の私たちだからこそ言えること。公開当時なら「監督の個性」か「“引き”の範囲内」ということで十分受け入れられたはずだ。

本作にスポンサーをろくに付けることもできず、満足に宣伝もできず、結果的に興行収入も鳴かず飛ばず、今日まで日が当たらなかったことは、やはり何らかの外的圧力があったとしか考えられない。そして、劇中で最も危惧されていた事態にいよいよ陥った今日ですら、TV・新聞をはじめとした大手マスメディアはこの映画の存在を閉口したままだ。当時何の後ろ盾もなかった山川監督はじめ本作スタッフの闘いは、想像を絶するものだったに違いない。カザーナ編集部一同、この場を借りて最大級の賛辞を贈りたい。

役所広司扮する天馬都知事の目玉政策が現実にぶち上げられていたとしたら、今日の悲劇は免れたかも知れないのだ。

東京原発 【DVD】【東京原発】原子力発電の危険性、混迷を続ける政治・経済、若者による犯罪の増加……。現代の日本が抱える様々な問題を、痛烈なブラック・ユーモアを交えて描いたパニック・サスペンス・ムービー。役所広司、段田安則、岸部一徳、そして紅一点となる吉田日出子など超豪華な演技派俳優たちが総出演。監督は、助監督として鈴木清順、降旗康男、伊丹十三、周防正行などの作品に携わってきた山川元。東京に原発誘致を掲げるカリスマ都知事VS反対派副知事。白熱する都庁へ爆弾と共にプルトニウムがやって来る!?

変 周長
へん・しゅうちょう/1981年愛知県生まれ。本誌編集長、クリエイティブマネジャー。
Twitter ID: @_CAZANA