牛鍋丼/吉野家
いきなり定説を覆すようで申し訳ないのですが、今やサラリーマンのライフラインとも言える牛丼チェーン、その代表格である吉野家のスタンダードは、もはや牛丼ではなくこの牛鍋丼ではないかと思えてならないのです。

牛丼(380円)より100円も安いこの牛鍋丼が、そもそも牛丼に勝るとも劣らない旨さであることは、一度でも食べたことのある人ならきっと納得してもらえるはず。
原点回帰を目指し、吉野家創業時に販売していた「牛鍋ぶっかけ」(牛肉を豆腐や野菜と一緒に煮込んだ牛鍋の具を丼に入れた飯にかけたもの)の復刻版である111周年記念商品ということもあり、その気合いの入り方には目を見張るものがあります。

通常の牛丼に比べて肉の量こそ若干抑えられているものの、その分しらたきと豆腐が仲良く同居しており、食べ応えは充分。また、見た目通り牛丼よりもヘルシーで、おなかにやさしそうなところも侍ランチとしてポイントが高いと言えるでしょう。

競合のすき家がセットメニューに冷奴を付けて「健康セット」と銘打っていることからも、牛丼業界において豆腐は最上級の健康食品として扱われています。その豆腐を一つ添えて、何と言っても、これが一杯280円なのです。ハンパない満足度ではありませんか。

近年、ますます激化する牛丼戦争。円高・デフレの影響もあり、競合各社が牛丼の通常価格の値下げを発表する中、吉野家は過去の反省から、いたずらに本丸たる牛丼の価格を下げようとはしませんでした。

そのため一時期売り上げが低迷し、昨年ついに1990年の上場以来過去最悪の赤字幅を計上。「アメリカ産牛肉にこだわるあまり価格競争力を失った」という、もっともらしい“吉野家一人負け”状態がメディアで執拗に報じられていたことを覚えている人も多いのではないでしょうか。

しかし、今思えばあの時期がまさにターニングポイントでした。吉野家は批判の矢面にさらされながら、クオリティを下げることなく価格競争力をも持ち合わせた新たなるスタンダードの開発に執念を燃やしていたのです。

そうして完成したNEWスタンダード。牛丼一筋百余年の吉野家の執念が生み出した血と汗の結晶。それがこの牛鍋丼というわけです。

牛鍋丼の登場で吉野家の業績はV字回復。2010年9月の発売開始から1か月足らずで販売数1000万食を突破する大ヒット商品になりました。

「スタンダードを極めた人間にしか、スタンダードを超えることは出来ない。」幻冬舎社長の見城徹さんの言葉を借りるならば、まさに牛鍋丼は、吉野家がアメリカ産牛肉というスタンダードにこだわったゆえに生み出された超スタンダードと言えるのではないでしょうか。

それでは今日も、手と手を合わせて、いただきます。