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壁の話をするといって、第一回がいきなりコンドームというのはいかがなものか、という賢明な読者も多いに違いない。全く正論である。コンドームはしかし、その起源から今日に至るまで、人類史上最も重要な壁の一つであり続けた。ご存じの通り、有効な避妊具としてだけでなく、性感染症の予防に絶大な効果があり、さらにエイズ(後天性免疫不全症候群・HIV感染症)の拡散防止という全人類的使命をも担っている。まさに世界最小にして最強の“防護壁”なのである。

8万個のコンドームを使った『芸術作品』、パリの美術館にて現在展示中(仏)
ありとあらゆる物質が対象となりうる現代美術であるが、現代美術作品の展示で有名なパリのポンピドゥー・センターで現在、意外なモノを使った『芸術作品』が、期間限定で展示中である。

ポンピドゥー・センター内にある通路の壁そして天井一面を覆う、カラフルで透明な何か。実はこれ、合計8万個のコンドームが使われた、れっきとした芸術作品である。

一見挑発的なこの作品は、アイルランド人芸術家のBryan McCormack氏によって作成されたもの。『生命の保護』と名付けられた作品名からも、McCormack氏からの深いメッセージが込められていると感じられる。

だがMcCormack氏は、「コンドームというと、どうしても性、避妊、エイズ、あるいは宗教といったイメージがどうしても浮かんで来るが、そうした重いイメージは一旦脇に置いてもらって、この作品はネオ・ポップの作品の1つとして気軽に見てもらいたいですね」と語る。実際、この展示を目にした人々のほとんどは楽しんで鑑賞し、中には「哺乳瓶が展示されているのかと思った」などと話す観光客もいたようで、重々しくない、明るい雰囲気の展示が想像できるのではないだろうか。
―――2011年11月23日/TechinsightJapanより一部抜粋

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壁から突き出た無数のコンドーム、その数なんと8万個!12月1日の世界エイズデーに因み、ポンピドゥー・センターの各階通路に展示された「エイズ撲滅キャンペーン作品」ということだが、個人的には絶頂期のマルセル・デュシャンに匹敵する現代アートの金字塔であると確信している。コンドームがまさに人類を護る“壁”であることを、これだけ端的に、かつ鮮烈に表現した作品を僕は他に知らない。桑田佳祐にここでAAAのライブ中継をして欲しかった。展示は今月5日までということで残念だが、今後のMcCormack氏の世界的な活躍に期待したい。

人類にとって“壁”は、人種・言語の違いなど、コミュニケーションを阻害する厚い障壁だけを意味するのではない。より親密なコミュニケーションのためには、むしろより薄く、より丈夫で、かつ気持ちいい壁こそ不可欠なのだということを、常に意識しておきたいものだ。

さえぐさ編集長
さえぐさへんしゅうちょう/1981年愛知県生まれ。本誌編集長。
Twitter ID: @_CAZANA