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前回、自ら男性の中に突撃する捨て身の婚活宣言をさせていただいたが、よくよく考えてみると、出会いが無くて困っている看護師の身近に、そんな都合の良い男性コミュニティが有るわけがない。というか、あったら出会いに困るようなことは無いはずである。

前回の記事を読みながら「んなもんねーよ!」と思った同業者様も多いことだろう。

あの海鵜のようにしなやかに、そして確実に獲物を仕留めるためには、常日頃より魚群を探知する下準備が必要なのだ。

巷に多く出回る婚活本やネット情報によれば、よくあるのが趣味やスクールを通じた出会いである。例えば、英会話教室やスポーツジムなどがそれに該当する。

だが、考えてもみてほしい。

まず私自身、英会話にはあまり興味がない。最低限の英会話はできるし、相手がいなけりゃ一人で海外に行く理由もない。最近のカルテは日本語でしっかりと書いてくれるので、さらなる外国語スキルを向上させる必要もない。人にもよるだろうが、どうせ始めるなら仕事や私生活に役立てられる習い事の方が良いに決まっている。そして、何より結構お金がかかる。婚活に直接投資を仕掛けたい私としては深刻な問題である。

また、スポーツジムには実際通っているのだが、どうせ鍛えるのなら心おきなく鍛えたい。したたる汗、乱れる吐息、それはまさに鬼の形相でランニングをする女に誰が声をかけるというのか。かといって、見られていることを意識しながら可愛く走っていたのでは、己の限界には近づけない。

万一こちらから声をかけるとしても、ジムで男を品定めしている女の目線ほど恐怖を感じるものはない。私が通うジムにも出会い目的で来ていると思われるアラサー女子がいるが、いつ見てもベンチで一休みしている。そして、お好みの男性が来るとおもむろにストレッチを始めて、でかい乳を揺らしながら内股でランニングを始める。まもなく脚の筋でも痛めてしまいそうで内心ちょっと心配しているのだが、まあそれは良しとしよう。



話は変わるが、私の職場はガチガチの体育会系病院で、最近リハビリに力を入れていることもあり、リハビリスタッフの数が多い。リハビリスタッフは大柄の患者さんを支えなくてはならないため、常日頃より筋トレを欠かさない脳味噌きんに君…失礼、ガチムチの先生揃いで、肥満は敵だという合言葉の下、ちょっとでも太ってしまうとそれが医師だろうが看護師だろうが容赦なく生活指導が入るほどだ。運動系のクラブ活動なんかも充実している。

そこで、今年の海鵜作戦はじめの一歩として、クラブ活動に参加してみることにした。安易な発想ではあるが、このフットワークの軽さが婚活を有利に運ぶ(と信じている)。

野球、フットサル、バレーボール、テニス、ゴルフ、サイクリング等々、調べてみると同好会も含め結構たくさんあるようだったが、最も人数が多く初心者もOKな登山部に仮入部。記念すべき初登山は1月中旬に行われた。

とりあえず登山靴とステッキがあれば良いと言われ、自称“山ガール”の友人から安価で譲り受けた。そして家中からありとあらゆる防寒着をかき集め、当日を迎える。

まだ夜も明けきらぬ頃に病院を出発し、登山を始めたのは日の出を少し過ぎた頃であった。寒い…とにかく寒い。

屈強な男たちに囲まれて、まだ雪の残る山道を登る。日頃から走り込んでいる事もあって、体力には自信があったがそれでもキツい。最初は皆で色々な話をしていたが、中盤を過ぎると言葉少なく、自分の足元の少し先を見ながらただただ登るのみである。

途中天候が悪くなり、ちらつく雪を見て、気分はまさに「あゝ野麦峠」。野麦峠を越えて諏訪の製糸工場へ向かった少女たちに思いを馳せる。もちろん登っているのは野麦峠ではない。

ただ結婚したいだけなのに、なぜ私はこんな所で登山をしているのか…。

今までの人生を振り返り、傷つけ傷つけられた男たちを思っていたその時、急に私の口の中が血の味で満ちてきた事に気付いた。違和感を覚え、出してみるとそれは紛れもなく血液。驚いて後ろを振り返ると、私の顔を見てさらに驚いた顔のリハビリの先生。

「あっ、鼻血出てますよ!」

寒さで顔面が麻痺していて気付かなかったのだが、どうやら鼻血が出ていたようだ。

ああ、なんというマヌケ面。ああ、なんと脆弱な我がキーゼルバッハ部位。昔、おばあちゃんが「ハタチを過ぎてからの鼻血は危ない」と言っていたのを思い出した。

ひとまず上を向いてティッシュを取り出そうとしていると、先生は私の顔面にあろうことか山道の雪塊を乗せるではないか。「大須さん、冷やすと良いっスよ」とか何とか。いや、あらかじめ十分冷えているのだが…。

窒息しそうになりつつも、ご厚意はありがたく頂戴することにする。やはり女性は素直であることが一番である。先生よ、脳味噌きんに君と思っていてすまなかった。粗野だけど案外優しいところもあるのね。と、顔面の雪を払いのけると「ちょっとその顔写メっていいっスか?」と半笑いで聞かれ、ハッと我にかえるのであった。

私の顔面に相対して、頂上からの景色はとてもきれいだった。頂上で皆で飲んだコーヒーも美味しかった。

だが今回の経験から言えることは、たぶん婚活に体を張る必要は無いということ。そして、人は苦しみの中に在る時、冷静な判断を欠く恐れがあるということだ。危険を脱した男女が最後にくっつくハリウッド効果は、やはり限定的なのだ。

婚活中の女性の方は、特にお気を付けいただきたい。

大須ぱる子
おおすぱるこ/愛知県出身・在住の現役看護師。幼少期の得意技はとび蹴り。男運悪し。好きなもの、エヴァ・猥談・牛すじカレー。時々白目、時々昇龍拳。