51FSmMS4-aL__SL650_
実は、今年になって未だCDを購入していない。iTunesの有料ダウンロード及びバンドオフィシャルからの無料ダウンロードを目下推進中である。記事を書くのに支障になるかと思いきや、以前は代表曲しか知らなかったようなバンドのアルバムが安価で手軽に、しかも全曲聴けたりするため、むしろ様々な恩恵の方が多くを占めている。音楽好きにとってはタマラナイ時代になったものだ。逆に製作者サイドの労苦は計り知れないということにもなるのだが、逆に売り方、魅せ方の裾野も広がっているはず。勝手な意見であることは承知の上で、やはりいち音楽ファンとしては、そういったネットの“拡散力”の可能性にこそ期待したい。

さて、今回取り挙げるバンドは、Wild Nothingだ。2009年にJack Tatumが結成したDream Popのバンドである。メンバーは一人なのだが、誰が何といってもバンドである。日本で言えばコーネリアス=小山田圭吾くらいの衝撃を持って迎えられてしかるべき、次世代POPチューン職人の誕生と言えるかもしれない。

ヴォーカルスタイルは80’sのテクノバンドやHURTSにも通じるような耽美性を帯びているので、無条件にうっとりしてしまうのだが、そこにTHE DRUMSを彷彿とさせるギターの音と曲全体を覆うエコーが楽曲の世界観に絡んできた結果、心地よいループ&グルーヴ感が恐ろしくも見事に体現されることになる。そのせいか、最近の寒すぎるこの国の気候を無視するかのように、太陽がギラギラと光り輝く常夏の浜辺で思わずはしゃぎたくなってしまうような真熱を帯びた作品に仕上がっている。その癒しに満ちたメロディラインの裏に隠された確信犯的要素たるや、Dream Popというジャンルの域を超えて世界的なイージーリスニングの潮流になり得るのではないかと密かに期待してしまうほどである。



今回のイチオシは、2010年にリリースされた『Gemini』というアルバムだ。ジャケットの女性(?)のどことなく冷静さを帯びた表情が不思議な魅力を放っているが、このアルバムほどジャケットとサウンドが合致したものも珍しい。最初は掴みどころを見つけるのにかなり苦労した。月面着陸する前の浮遊感とはこういうものかもしれない。だが、一度降り立ってしまえば、今までの過去をすべて洗い流し、心まであっさり奪われてしまう…それはまるで新しい恋のはじまりのような恍惚に浸ることができる。

リードトラックとなる『Summer Holiday』は、前回紹介したThe Jezabelsの『Endless Summer』に匹敵する強烈なキラーチューンである。その爽快感たるや、脳の中にこびりついているネガティブな冬の記憶を一切合切かっさらっていくかのように、今年の夏を鮮やかに彩ってくれること請け合いだ。波飛沫に屈折して反射する太陽の光、または有名ブランドのショーウインドーケースのように、その輝きを色褪せることなく永久保存していった宝石箱のようなこのアルバム。聴けば聴くほどWild Nothingのサウンドが神々しく、それゆえ身近に感じられるに違いない。

路考茶
ろこうちゃ/片田舎の音楽評論家。専攻は「環境と音楽」。中学1年で音楽全般に目覚める(受け専門)。田舎ではどうしてもラップ・レゲエや演歌、歌謡曲しか通じないため、本誌を通して密かにROCKMUSICの雪解けを企んでいる。Twitter ID@my8mountain8hop