「研究対象は、今の福島にある川だった。相馬市の松川浦から、宇田川と小泉川って二本の川が流れてるんだよ。今回、津波の被害を受けたところ。だからおれ、もう行けないんだ…あそこには」

暖かい地域のくらし/目崎茂和

『地理学者』の目崎茂和

 
―――僕は今30歳なのですが、先生が僕らくらいの頃って、ちょうど琉球大学に赴任された時の年齢ですよね。ある意味“社会人1年目”から、縁も由もない土地での生活ということで、実は先生が一番苦労されていた時期なんじゃないかと思うのですが…。

目崎:全然!一番いい時だったな!

―――そ、そうなんですか?

目崎:何もかもが新世界だったからな。不思議の国のアリスみたいな気分だった。

―――それは東京教育大学(現在の筑波大学)から出られた時の実感として?

目崎:早く出たかったからなぁ。

―――逆に「やっと出れた!」という感じだったと。

目崎:うん。ドクター論文毎日書いて、嫌な嫌な世界だったよ。しかも貧しいし…。でもあの時代にすごくプライドとして残っていることは、大学入った時、朝永振一郎がノーベル賞取ったときの授業、おれは受けてるんだよね。元都知事だった美濃部亮吉の経済学とか、教科書裁判中だった家永三郎の『太平洋戦争史』なんていう授業も受けてた。全部大学1年の頃の話だよ。

―――ものすごい面々ですね。

目崎:そうなんだよ。当時の東京教育大学には、東大よりもすごい教授がたくさんいた。日本の人文科学のトップ研究者が、東大以上に教育大学に集まっていた時代があった。みんな文学だとか教育学だとかの第一人者だった。確かにそういう中で育ったっていうことが、今のおれの原点としてあるよな。そもそも『風水学』の原型みたいな内容だって、東京教育大学の教授だった直江広治っていう中国民俗学者が、その頃からすでに扱っていた領域なわけで。

―――そうした稀有な環境の中で完成した博士論文が『川がどうしてできるのか』。

目崎:そう。しかも研究対象は、今の福島にある川だった。相馬市の松川浦から宇田川と小泉川って二本の川が流れてるんだよ。今回津波の被害を受けたところ。だからおれ、もう行けないんだ…あそこには。

―――そうだったんですね…。

目崎:3年間通ったからなぁ。

―――なんで川をテーマにされたんですか?

目崎:え?面白いからだよ。

―――面白いから?

目崎:学生時代、大学院に入るまでずっと日本の川を見て回ってたんだけど、日本の川ってみんな砂利で出来ていることが多いだろ?でも、例えば伊勢平野なんかを歩いていると、砂利の川って全然見えないんだよ。山が遠いから。で、山の近くにある川はやっぱり砂利で出来ていた。

―――じゃあ砂利は山から出来ていたんですね。

目崎:な、そう思うよなぁ?ところが今度は、沖縄に行ったら砂利の川が全くないんだよ、ひとつも。熱帯って砂利の川がないんだ。じゃあ何で出来ているかっていうと、泥だよ。だからマングローブが出来たりする。

―――沖縄にも山はたくさんあるのに…。

目崎:「どうして熱帯には砂利が生まれないのか」…実はそんなこと、当時の日本人は誰も考えたことがなかったんだよな。沖縄に行ったから気がついたんだよ。

―――それが沖縄との最初の接点だったんですね。

目崎:で、どうして川に砂利ができるのかっていうと、本州には、冬は雪が降って、夏は暑いっていう気候の変化があるじゃん。でも沖縄には雪が降らないし、氷点下ゼロにならないんだよ。実は氷点下ゼロになるかならないかっていうのが砂利を作るかどうかの境目なんだな。…これ、意味分かるか?

―――すみません、わかりません!

目崎:(笑)氷点下ゼロ以下になると、岩盤の中に含まれている水が凍るんだよ。凍るときに10%膨張する。そうすると岩盤に割れ目が出来る。で、気候が暖かくなるにつれてその氷が溶けるだろ?これを繰り返しているうちに、岩盤がひび割れを起こしていって、だんだん、だんだん砂利になっていくんだよ。

―――つまり、山から転がってきた石が割れて砂利になるんじゃなくて、地面の岩盤が割れて、石になって、砂利になるっていうことですか?

目崎:そう。それまでは山崩れで出来るものだと思われていたけど、そうじゃなかったんだよ。で、割れたばかりの時はまだトンがってるんだけど、転がっているうちに、だんだん丸くなるんだよな。だから日本人の人生はよく川に例えられるんだ。

―――『川の流れのように』…?

目崎:子供は両親という山から生まれる。父親は天から雨を降らせる。それが母親という泉に降って、それが潤いとなって、大河の一滴のように我々の人生は始まるんだな。実は、それこそが風水の根本にある考え方なんだよ。これが旧約聖書の場合、お父さんは雨じゃなくて、光。お母さんに光を到達させることになる。だから旧約聖書の中で、闇夜に神が「光あれ」って言うでしょ?あの光って、実は精子のことなの。おれがよく「人生は大河ドラマだ」っていうのは、そういう意味なんだよ。(続く