SOTTEN
先日、代官山ヒルサイドフォーラムで開催された東京藝術大学の有志卒業制作展“SOTTEN”に行ってきました!従来の「卒業展覧会」に対し、展示内容の質を維持しながら一般訪問の敷居を低くすることで、より多くの方に芸術の可能性を知って欲しい―。そんな趣旨で、昨年から有志で集まった学生によって始められたというこの展示会。今年は第2回ということで、美術学部・音楽学部各学科から、総勢70名もの学生が出展。「平面あり、立体あり、インスタレーションあり、映像あり、ミニリサイタルあり、目で、耳で、体で楽しめる、クロスジャンルな芸術展」になるということで、否が応でも期待が高まります。

実際に中に入ってみると、さすが東京藝大の卒業制作だけあって、見ごたえは十分!3月18日までということで、もうこの記事が掲載される頃には終了してしまっているのが残念ですが、せっかくなので幾つか気になった作品を紹介していきたいと思います。

◆「記憶の積層」西澤絵里子
記憶の積層/西澤絵里子
まずは、西澤絵里子さんの「記憶の積層」です。これは漆と発泡ウレタンなどを用いて作られたオブジェで、制作展の最初を飾る素晴らしいものでした。漆という日本古来の伝統芸能に、発泡ウレタンという近代の発明を重ね合わせているところにタイトルの意味があるのかもしれません。ポートフォリオなどを置いて過去の自分の作品を併せて発表している方が多い中、そういったものを一切排除して展示されたこの作品自体が、何より作者自身の歴史を表現していた――というのは言い過ぎでしょうか。

◆「夜には唖となる夢を」岩谷駿
夜には唖となる夢を/岩谷駿
情事を終えたらしい男女が微妙な距離感を保ったまま倦怠感を出しつつ、弾まない会話をしているどうしようもない感じが最高でした。何というか、もう辛抱堪りません。まるで、「寝てしまえば、結局別々の世界にいってしまう。たとえ二人で寝ていても」というような気持ちを表現したかのような、虚ろさな表情を醸し出した作風が印象的でした。

◆「Holo(graph)plankton」野呂杏奈
Holo(graph)plankton/野呂杏奈
そして、今回僕が特に感動したのが、野呂杏奈さんのプランクトンをモチーフにした装飾品としての金属加工作品「Holo(graph)plankton」シリーズでした。

野呂さんは1987年、青森生まれ。小さいころから絵を描くことが好きで、芸大に進むことに何ら抵抗感はなかったそうです。もともとはグラフィックやイラストレーションを専門としていて、CDジャケットやFlashの動画などを作成していましたが、ある時、金属の錆(さび)のマイナスのイメージを何とかプラスにできないか…という思いから、「蝶の蝶番」という作品を発表。まさにドアを開閉するたびに蝶が舞う仕組みになっているのですが、年月や使い方、環境によって変化していくことを愉しめる工夫が凝らされていて、彼女の独特の優しさが貫かれた作品に仕上がっています。

今回の卒業制作にあたっては、彼女は微生物ばかりが載った本を見て、それをモチーフにしようと決めたとのこと。金属といっても数種類あり、鉄・銅・真鍮によって色の出方が違い、焼き方や焼いたものを削り、さらに焼くことで出てくる色もあります。野呂さん自身も初めからこうした作品のイメージがあったわけではなく、「何か違う。何か違う…」を繰り返し、煩悶の中、美しい色へと変化していく金属に徐々に魅せられていったのだそうです。

そういうわけで、実際の成果物もピアス・カフス・ネックレスなど様々。ずっと見ていると、アボリジニやインディオの装飾品にも見えてくるのは僕だけでしょうか。ありのままの自然を受け入れる彼らの文化に通ずる感性を、野呂さんの作品、そして野呂さん自身が持ち合わせているのではないかと思えてなりません。

Anna Noro

今後、彼女はCAMP FIREの中でも告知されている通り、花を中心とする植物をモチーフにした作品を制作したいとのこと。CAMP FIREとは「クリエイターのアイデアを実現するための創作費用を、共感した人々から少額で募れるクラウドファンディングのプラットフォーム」。いわばクリエイターのパトロンを募集するサイトで、この中で今回彼女は150,000円の資金集めを目標にしています。

私たちが忌み嫌ってきたはずの金属の錆。その逆説的な美しさに気づき、作品に変えてしまう彼女の根源的な優しさに今後も触れたいと思う方は、これを機に少額からでも彼女の活動を支援してみてはいかがでしょうか。


U
ゆう/ライター。名古屋で生まれ育つ。現在は都内某所に潜伏中。日本および世界の中でわれわれがこれから行動するための姿勢を考え、潜伏しながら取材を続ける自称過激派サラリーマン。