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ソニーが先日、2012年3月期の決算として4,500億円という巨額の最終赤字を発表しました。ソニーの最終赤字なんて今更珍しくないと思われるかもしれませんが、この水準が5年続けば、ソニーが債務超過に陥ってしまうレベルだと言えば、市場に与えたインパクトがいかに大きかったかは想像に難くないでしょう。しかし、この数字を見て深刻に捉えすぎてはいけません。“実質の損益”を表しているとはいえないからです。

大企業の決算に関する数字を見るときに、まず覚えておきたいことがあります。それは、大企業は赤字を計上することに踏み切った年度に、なるべく赤字を積み上げようとする性質があるということです。損失を出しつくし、来年度以降のV字回復をインパクトのあるものにするのは、経営戦略上の常套手段です。そのため、同一年度に赤字を集中させるために様々な手法が用いられます。巨額の利益が営業マンの努力の賜物ならば、巨額の赤字は経理マンの血と汗と涙の結晶なのです。

例えば「構造改革費用」の計上。これはリーマンショック時の2009年3月期の決算に散見されました。収益性の悪い事業について早々と撤退を決め、洗いざらい評価損を計上したり、早期退職を年度内にねじ込んで特別退職金を計上したりするものです。

当時の主な計上額は、「構造改革費用」と称した損失を日立が1,500億円、ヤマハ1,000億円。また、「早期退職金」としてパナソニックの380億円などです。これらはいずれも損失の計上に経営者の意思決定が必要なものです。逆に言えば、期間内に取締役会で決めてしまえば、損失の計上を否定する理由はなくなります。

そんな数ある会計処理の中でもっともインパクトの大きいものは、何と言っても「税効果会計」です。利益額に圧倒的なレバレッジをかけることができるからです。



「税効果会計」とは、会計とは異なる考え方で行われる法人税法に基づく税金計算の結果と、会計上の利益計算の差を調整する方法です。例えばソニーは過去の累積赤字があるため、今後一定期間は法人税を払わなくていい。そのため、利益が出ても税金計算の結果はゼロとなります。しかしそのまま会計に税金ゼロと計上すると最終損益がいびつになってしまうので、それを防ぐために、税金を会計上の損益に対応して支払っているように見せかける方法が「税効果会計」なのです。

ソニーの例では、「税金を払わなくていい権利」を資産として計上しておき、利益が出た年に対応する分を取り崩しながら費用化していきます。

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ここで問題となるのが、「税金を支払わなくてもいい権利」を有する期間に、利益が見込めず、その権利の行使が怪しくなったときです。権利は資産として残しておくことができず、一気に費用化されることとなり急に赤字が膨らんでしまいます。(下の例は80あった権利を一度に処理する例)

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会計基準のおかしな点は、ある年に大幅な赤字が出ると、たとえそれがV字回復を狙ったものであっても、この権利の資産計上が認められにくくできている点です。逆に利益が出て、その時点では来年度以降も継続して利益が出ると見込んでいるときは権利を一気に計上できるため、黒字が助長されます。

したがって、景気の波に左右される業界や、流行り廃りの波が大きい業界では、常に損益にレバレッジがかかったようになります。

この税効果会計の判断にも、企業の意思決定が大いに影響を及ぼしています。翌年度以降の業績を企業自身がどう判断しているかに依存した会計方法だからです。会計監査ではまず“合理的な計画”となっているかという点に着目していますが、そういう理由もあり、判断はなかなか難しいのが実情です

さて、今回のソニーの最終赤字4,500億円のうち、この税効果によるものが2,600億円と推計されています。つまりこの▲2600億円は、来年度以降の業績予想が思わしくなくなったことによる権利の取り崩しでしかないというわけです。先ほどの考え方で言えば、“実質の損益”は▲1900億円程度と見ることもできるのです。

財務諸表を見る際には、税金と最終利益の関係に注目し、“実質の損益”とかけ離れた損益になっていないかどうかをまずは見極めていただきたいと思います。

Hiroumi Kawai
ひろうみかわい/1985年生まれ。名工大・Auckland Grammer School卒。某監査法人に所属する傍ら、プライベートオフィスを運営。現在、会計士の専門性を生かした社会貢献を模索中。愛知陸協所属ランナー。
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