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フランス大統領選は、やはり予想通りサルコジ氏の敗北に終わった。とはいえ決選投票だったわけで、相当な接戦だったことは言うまでもない。つまり今回の結果は、「サルコジ氏が敗れたからと言って、オランド氏が選ばれたということにはならない」。単に「サルコジじゃない」候補が選ばれたに過ぎない。それはオランド氏が一番よく分かっているはずだ。

どちらにせよ、勝ったのは排外的勢力だ。この結果が持つ意味は大きい。フランスは「自由・平等・博愛」という国是を自ら投げ捨てることになるかも知れない。少なくとも、反イスラムと脱ユーロの流れは決定的になったと考えるべきだろう。

残念だがフランスは、今後しばらく周辺国と摩擦を起こすことになる。ほぼ間違いなく、原発の電気料金などで揉めると断言できる。なぜか?

まず、オランド氏は金を稼ぐ算段をしないまま福祉改善を公約にしたから、どっかから予算を持ってきて補うしかない。とすれば、一番やりやすいのは「安全基準を達成するために費用がかかる」という理由で原発の電気料金を上げることだ。これで脱原発の流れにできるし、国内の不満が高まることもない。一見良策だが、その場合、おそらく周辺国は耐えきれないだろう。

オランド氏は1990年ドイツ統合時のミッテラン大統領に仕え、心酔していたそうじゃないか…。

俺は覚えているぞ!忘れもしない、1989年にヨーロッパのソ連勢力が崩壊した時、ゴルバチョフですらドイツ統合を認めたのに、フランスのミッテランだけが強硬に反対していたことを。

あの時、パパブッシュ・サッチャー・コールという偉人たちが相次いでミッテランを説得して、ようやくドイツ統合が成った。

当時のフランスの主張は「ドイツが統合すると欧州を支配しようとするので、その管理者としてフランスが君臨する」というものだった。要は「ドイツがEUの費用負担しろよな。フランスはそれに乗っかって管理するからw」という今のスタンスと全く変わらないというわけだ。

そんな傲慢なフランスの態度に業を煮やしている周辺国が、ここに来て黙っているとは思えない。

統合のために、当時西ドイツマルクの数分の1の価値しかなかった東ドイツマルクを等価で引き受け、長年の東側支配で線路すら規格が変わってしまった東ドイツを懸命に同化させ、ポーランド以東への挑戦を続けたドイツと、「EUの管理者」という立場に安住してふんぞり返ってきたフランス。両国に今日の差が出るのは当然だ。

そんなEUの根本的な構造は、2000年以上前から何も変わっていない。一言で言ってしまえば「プロテスタントがカトリックを食わせ」 「ローマがギリシャを食わせる」という図式に他ならない。

かつてローマの将軍がギリシャを占領するときに、「ギリシャを占領することによって、ローマを支える質実剛健の風土が、ギリシャの口先で華美な民主主義の成れの果てに侵食されるのではないか?」と心配したが、結果はまったくその通りになった。ローマはギリシャを版図にしてからというもの、徐々に質実剛健な風土を失い、ギリシャ式の華美で怠惰な生活文化に変容していった。そこからローマの衰退が始まるのだ。

現にギリシャは、財政破綻の危機にある今ですら「民主主義の発祥国である俺たちをEUが切れるはずがない!!」などと思っている節がある。



さて、こうなると俄然注目されるべきはドイツの動向だ。

今やEUはドイツの経済に頼るしかなくなっている。ヒトラーの第三帝国は滅んだが、第四帝国の可能性を考えてみる時期に来ているのかも知れない。ナチス・ドイツは東方支配を悲願としたが、実は今のドイツもそれは変わらない。投資対象である東ヨーロッパはやはり重要で、ライン川以西はほとんど重荷に過ぎない。オランド氏、さらにはフランスの態度によっては、今度はベルリンの壁ならぬ「ラインの壁」が引かれる可能性だってある。そのくらい、今のドイツは強い。

しかもこの壁はかつて大国からの外圧で出来たベルリンの壁とは違い、ドイツ国民の潜在的な意識の中にある壁でもある。もちろん現時点でそんな壁の計画などあるはずもないが、もし実際に建造が進むようなことがあれば、ベルリンの壁の何倍も強固で厚い壁となることは間違いない。

それが意味するものは、ラインの向こう側がイスラム圏になるということだ。ドイツに見捨てられたら、ラテン・ヨーロッパはムスリムの独壇場になるかもしれない。

キリスト教的社会では、貧困は余りにも辛すぎる。その点ムスリム社会は実に貧困層にとって優しい…というかそれを受け入れるノウハウに満ちている。新自由主義で貧富の格差が開くばかりの欧州社会で、ムスリム社会が底辺層から浸透していくのは当たり前のことなのだ。

日本人は欧州社会の上層部しか見てこなかった。それでは今後の欧州の動向を見誤る可能性が高い。人類社会の数少ない真理は「貧乏人の数は常に金持ちより多い」ということだ。欧州はこのままいけば、民主投票でイスラム社会になることも充分あり得る。欧州の本当の危機が経済でなく文明の問題だと気付いた時、フランスは「自由・博愛・平等」を旗印にした民主主義社会を維持できるのだろうか?

大統領就任早々、ドイツのメルケル首相の元に飛んでいったオランド氏。フランスは焦っている。このあたりの動きには、今後も引き続き目を凝らしておきたい。

瀬戸内平八
せとうちへいはち/愛媛県出身・在住の歴史家、旅人、ニート…何でもいい。本音持って来い!自由とは、覚悟の色、矜持の風。人生を検索するな!結果のバランスを取るな。大義親をも滅ぼす。知行同一。間違ったら即焼き土下座。優しさを捨てて寛容になれ。そして敵を祝福せよ。