パナソニック
パナソニックが過去最大の赤字を2012年3月期に計上しました。リーマンショック時に日立が計上した、我が国の製造業史上最大の赤字7800億円に迫る巨額の赤字です。前回の記事で、ソニー大赤字の原因は「税効果会計」という会計手法によるものだということを紹介しましたが、対するパナソニックの内容は、ソニーよりやや「正統派」であると言えます。

パナソニックの赤字の中身は、ほとんどが「構造改革費用」というものです。7800億円のうち、この構造改革費用がなんと7700億円を占めています。前回も少しだけ触れた内容ですが、今回はパナソニックを例にとって、この「構造改革費用」について分析していくことにしましょう。

同社が発表した資料を紐解くと、中身はおおよそ次のように分類できます。

(1) 固定資産の減損損失(テレビ事業2700億円、半導体事業500億円)
(2) 三洋電機ののれん減損損失2500億円
(3) 早期退職一時金1000億円

(1)、(2)は資産の減損損失。(3)は早期退職による割増退職金。(3)について詳細な説明は割愛します。期末までにリストラを決定しさえすれば、退職金は未払いであってもその年の決算に反映できます。来年以降対象者の給与は発生せず、結果的にコスト削減となります。

資産は本来、長期間にわたってその効果が期待できるために、財務諸表に残しておき毎年少しずつ費用化されます。例えば100万円の機械を買って製品を10年間製造する場合、買った年に100万円の費用としてしまうと、その年は大赤字となってしまいますよね。そこで、一年分として10万円だけを費用とし、残り90万円は資産として残しておくのです。資産は毎年10万円ずつ減少させ、代わりに10万円をその年の費用とします。すると毎年の製品の売上と製造コストがうまい具合に対応し、ちょうど毎年10万円で商品を仕入れて販売する場合と利益が同じになるのです。

ところが、仮に一年後その機械で製造する製品が売れなくなり、残っている機械の資産額90万円が回収できないことが明らかになると、もはやその機械の“資産としての価値”は90万円とは言えなくなります。あと40万円分しか売れないとなれば、差額の50万円は一気に損失として計上するのが今の会計のルールです。“資産としての価値”を重視するため、将来少しずつ赤字を計上するのではなく、明らかになった年に一気に計上されるということが起こります。しかもこの「売れない」という判断は、企業自身の判断に拠るところが大きいからやっかいです。

パナソニックの例に戻ると、(1)はテレビ事業と半導体事業の収益性が悪化し、投資した固定資産(工場や機械などの設備)額が回収できなくなったと判断したための損失計上だと考えられます。固定資産を減損してしまったので、来年以降は費用が発生しないことになります。

(2)は保有する三洋電機株式の「のれん代」の損失計上です。「のれん」とは、市場株価より高い価格で買収した際の差額部分のことです。統合による合理化やブランドイメージなどを見込んで、企業買収時には市場株価より高い価格で株式を取得するのが普通です。差額部分は「のれん」という名称で資産に計上しておき、価値が見込まれなくなった年に損失処理するというわけです(これは米国会計基準を採用するパナソニックの処理方法であり、日本基準では数年間で同額ずつ費用処理するのが普通です)。

パナソニックは今期この「のれん」を一気に損失処理しています。これは、三洋電機との経営統合のアドバンテージがもはやなくなったと判断して、自ら公表しているに等しい行為です。しかし、こちらも来年以降費用発生のおそれがなくなりました。

以上から分かる通り、パナソニックが計上した構造改革費用のメインは、企業自身が人員を含む資産をいくら圧縮したかというもので、会社の判断が大いに関係しています。連続赤字を避けたい心情から、圧縮する金額は、来期黒字化のために必要な損失となると考えられます。別の言い方をすると、来年いくらコストを減らせば黒字化できるかという周到な計算の結果というわけです。

来年の業績予測資料を見ても、今年の損失計上による固定費削減により、かろうじて黒字化しているに過ぎないことが分かります。つまり「黒字化=業績回復」という図式ではまったくないのです。

「抜本的対策と新体制の構築に向け、人員のスリム化、拠点の再編、そして固定資産やのれん減損など、過去にない大規模な構造改革を断行いたしました。」とパナソニック自身が発表していますが、固定資産やのれんの減損は、その気になれば断行できるものなのです。これは褒められたものでも何でもありません。投資額がまともに回収できなくなったための「その場しのぎ」であることだけは覚えておいたほうがいいでしょう。

Hiroumi Kawai
ひろうみかわい/1985年生まれ。名工大・Auckland Grammer School卒。某監査法人に所属する傍ら、プライベートオフィスを運営。現在、会計士の専門性を生かした社会貢献を模索中。愛知陸協所属ランナー。
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