キュウキョク/GAKU-MC
今回はあの『DA・YO・NE』で一世を風靡した、EAST ENDのGAKU-MCを取り上げたい。この日本を代表するラッパーを敢えてこのコーナーで取り上げるのには理由がある。彼は90年代に爆発的なブームを巻き起こしてからも大資本に頼ることなく、自分でDIYしながら音楽を創り出してきた稀有なアーティストの一人なのだ。昨年、京都での学生主催のライヴイベントで、アコースティックギターを持ちラップを奏でる彼の姿に、私はすっかり心を打たれてしまった。常に新たな形での音楽活動を諦めない、彼の心意気をカザーナで取り上げないわけにはいかない。

この『キュウキョク』は、当初GAKU-MC本人に購入希望のメールを送ると、MP3ファイルでデータを送ってくれるという新しい音楽販売の試みを行っていた(※現在はiTunes等の配信や全国CDショップ、ライヴ会場で販売されている)。

「顔の見える音楽生産者でありたいと願う。本人とやり取りして買える音楽。作った野菜を本人から買える有機野菜のようのな音楽っていいよね。」という彼のホームページの言葉に、真摯に音楽と向き合い、大量消費→使い捨ての負のサイクルを断ち切る「音楽のクリーンエネルギー化」を推進していく強い覚悟を感じた。

cero『大停電の夜に』にも通じるところではあるが、『take it slow』は静かに彼が決意表明し、聴いている僕らに直球で問題提起をしている。電気がなくても前に進める、それなりに過ごせるだけに留まらず、便利なツールに依存しなくとも自給自足と相互扶助で暮らしていける…。まさに「希望の灯」を照らして、その光は電気よりもはるかに明るくて、神々しく映り得る。

ラップをHIP HOPの枠組みに閉じ込めることなく、ロック・ジャズ・アコースティックなど自由なスタイルを究極に絞り出した9曲、それがこの『キュウキョク』である。

また、このアルバムでは『もしもラッパーじゃなかったら』などで、過去の自ら手掛けた楽曲へのオマージュも随所に見られる。それは彼がこれまで全身全霊で生み出してきた音楽を不死鳥のごとく甦らせる試みであり、同時に自らの進化をパッケージングすることで、GAKU-MC初心者にも馴染みやすさを残した入門盤の様相すら呈しているのだ。

彼は “自分は正真正銘のラッパーである” ということを『キュウキョク』で堂々と証明し、日本人が見失いかけている大切なものを音楽で掘り起こすべく様々な問題を各曲に投影させるに至った。他にもキャンドルナイト、ピースボートへの参加など様々な活動を通して着実に大きな一歩を踏み出している。きっとその歩みは、これから訪れるどんな困難にも折れることなく、少しずつ日本をより良い方向へ導く力となるに違いない。

実は9曲通して聴くと、あまりの直球勝負に些か照れくささを感じたりもするのだが、シンプルに自分の何かを変えたい思いを音楽で伝えられる素晴らしさが最終的に上回る。この純粋さを、今この国の大人たちはあまりにも忘れ過ぎているのだ。

なお、この『キュウキョク』は9曲全てのPVが作られている。GAKU-MCの今作に懸ける意気込みと自信のほどが伺えるのではないだろうか。確かに、全曲シングルと銘打っても遜色ない傑作である。各曲に明確なメッセージが込められているので、ぜひチェックしてみて欲しい。


路考茶
ろこうちゃ/片田舎の音楽評論家。専攻は「環境と音楽」。中学1年で音楽全般に目覚める(受け専門)。田舎ではどうしてもラップ・レゲエや演歌、歌謡曲しか通じないため、本誌を通して密かにROCKMUSICの雪解けを企んでいる。Twitter ID@my8mountain8hop