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JALの経営破綻の要因の一つに、多額の企業年金の支払い負担があったことは記憶に新しいのではないでしょうか。 企業年金についての疑念の目は低成長化する経済社会の中で高まり、今年1月に発覚したAIJ投資顧問の年金資産消失問題から、その注目度は一気に跳ね上がりました。先日、ついに厚生労働省有識者会議が開催される事態となり、6月29日に最終報告が公表されました。一方で、会計分野においても5月に企業年金に関する会計基準改正が公表されるなど、企業年金に関する話題に事欠きません。

そもそも企業年金とは、従業員の老後の生活の糧にするために企業が積立を代行し、老後に企業から年金として定期的に支払いを受けるものです。ただし財政基盤のしっかりとした大企業を中心に存在する制度であり、すべての企業に存在するわけではありません(*1)。

企業年金制度が存在する企業の多くには、退職時に受け取る一時金(いわゆる退職金)の代わりに年金として受け取る選択肢があります。一時金を企業が全額負担するように、年金の掛け金は企業が負担するため、形式的には従業員への福利厚生の一貫とされています。

高度経済成長や終身雇用制度の象徴ともいえる企業年金ですが、時代の変化とともに問題も表面化しつつあり、今後企業年金に頼るライフプランは変更を余儀なくされる可能性が高いと考えられます。企業年金はどのように時代遅れになり、なぜ頼るべきではないのでしょうか。

(*1)平成20年度厚生労働省就労条件総合調査によると、従業員千人以上の企業では一時金・年金併用が57%、年金のみが24%と年金81%の企業に年金制度があるのに対し、100人未満では逆に一時金制度のみが63%と大半を占め、年金制度の採用は38%にとどまる。

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【理由1】企業の寿命の短期化
企業の寿命の考え方については諸説あり、明確に今後企業は何年存続するか言い切ることは難しいのが現状です。なぜかというと、実際に倒産した企業の集計だけでは、将来のことはわからないからです(*2)。

一昔前は30年というのが通説になっていましたが、現在では20年、10年と言われることが多くなっているように感じます(*3)。企業業績は低迷、情報が瞬時に駆け巡り、様々な製品のライフサイクルが短期化する今、組織のライフサイクルも縮まっていると考えるほうが自然でしょう。いまの20代が企業年金の受給対象となる40年後に、企業が存在する可能性はいったいどれぐらいあるのでしょうか。

企業が破綻した場合にも、その時点まで積み立てた年金は基本的には守られるとはいえ、破綻時点以降の年金が積み立てられることはありません。ライフプランは白紙に戻ってしまいます。また後述のように徐々に徐々に将来の給付額が減らされる要因は大いにあるのです。

厚生労働省の有識者会議では、OBの給付額を減額する基準の緩和が議論されたようです。さらに報告書では将来の制度自体の廃止も検討課題とされています。

(*2) 倒産企業が実際に何年存続したかという調査では23年という結果が出ている。(参考:東京商工リサーチ)ここ数年寿命が延びているが、それは創業年数が長い老舗企業の倒産が増加しているからであり、実態としての寿命は減少していると言わざるを得ない。

(*3)極端なことを言う人は3年なんていう人もいる。(参考:会社の寿命3年時代の生き方


【理由2】年金基金の運用利回りの低下
仮に給付開始時まで企業の破綻がなくとも、実際の受給額が現在の受給予定額を大幅に下回ることも視野にいれる必要があります。年金基金の運用は年々厳しくなっています。長期金利は低迷し続け、予定された運用成績を上げ続けることが難しくなります。運用成績が予定を下回ると積立不足が発生し、結果として給付条件の改悪につながります。

さらに国債等の安定投資に限界を感じ無理な収益を追い求め破綻する第2、第3のAIJが現れても何ら不思議はありません。要するに確実に数%の運用成績が上がるという時代は終わったにもかかわらず、変わらぬ成果を約束する点に無理があるのです。


【理由3】会計基準の影響
2012年5月の会計基準改正により企業年金の積立不足は財務諸表に即時に反映させることが決まりました。現行基準で認められた積立不足の計上の先送りが認められなくなります(*4)。

予定通りの運用成績を達成できない年金資産は、企業の純資産を圧迫し、財務の健全性を示す自己資本比率を形式的に圧迫します。実態は何ら変わらないとはいえ、財務指標の形式的な悪化を嫌う経営者が企業年金の給付額を引き下げたり給付期間を短くしたりし、企業の負担を減らそうとする可能性は十分あります。

(*4)現行の会計基準では、積立不足は10年以上の年月をかけて徐々に財務諸表に反映される。積立不足は主に資産の運用成績が期待額に到達しないことによって生じる。

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では、このように将来の給付額の不確実性が大きくなる中、企業年金とどのように付き合っていけば良いのでしょうか。不確実性を減らすという観点から考えてみます。

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【提案1】後払いでなく前払いの賃金を選択
従業員は掛け金の負担をしないといっても、企業にとっては給与や賞与と同様の人件費に変わりはありません。ただし、即時にキャッシュアウトがあるかないかという決定的な違いがあります。企業年金や退職金として先送りにされる分だけ、労働の対価として"今"もらえる給与は少なくなっているのです。

個人にとって退職金は給料より税務上の優遇措置があるため、退職金を多くして給与を減らすという考え方もありますが、その理屈は数年単位の雇用が前提で退職金の取りっぱぐれリスクの少ない外資系金融機関等のみでしか通用しなくなるのではないでしょうか。すぐに実行は難しいですが、仮に給料は高いが企業年金制度がない会社と、給料は低いが老後の備えが厚い会社の選択の機会があれば、前者を選ぶべきなのです。


【提案2】一時金を選択
退職時に年金か一時金(いわゆる退職金)として受け取るか選択できる場合、一般的に受け取れる総額は年金の方が高くなります。しかし単に総額が得だからと年金を選択するのではなく、企業や、年金基金の財政基盤が磐石かどうかチェックし、場合によっては積極的に一時金を選択する必要があります。


【提案3】自らの力で生き抜く備えを
3つ目は、不確実な権利そのものに頼らない自分をつくることです。これまでの2つは、どちらかというと、確実に行使できるかわからない権利はなるべく先送りにしないという考え方でした。不確実性が増加する時代に、不確実性なものを早めに確実なものとすることには有効な手段です。

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企業年金に限らず国の年金制度全体の危機も叫ばれて久しいです。定年後に入ってくる金額を「もらえるもの」としてあてにするのではなく、定年後(定年という仕組みが40年後にあれば)に働くことのできるキャリアを意識したり、不労所得を築いたり、企業年金を含む年金制度全般に頼らないで済む状況を作り出すことは大きな安心感を生みます。金銭面での安心感は心の余裕をもたらし、結果として様々な場面で好影響を及ぼします。自らの力で老後を生き抜く備えについて、今から意識してみてはどうでしょうか。

【注】当記事では企業年金の全体として、上場企業に多い確定給付型年金(将来の給付額があらかじめ定まっている年金=リスクは企業が負担)を前提としています。

Hiroumi Kawai
ひろうみかわい/1985年生まれ。名工大・Auckland Grammer School卒。某監査法人に所属する傍ら、プライベートオフィスを運営。現在、会計士の専門性を生かした社会貢献を模索中。愛知陸協所属ランナー。
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