サラリーマン 過労
現在、会計の世界は国際化の渦中にあり、その一環として有給休暇に関する会計ルールが新たに導入される機運が高まっています。今回は、一定期間の労働の対価として権利が認められている有給休暇と、それに関する会計ルールについて紹介します。

有給休暇の取得は、本音としては、会社にとって好ましくありません。有給休暇が消化されないということは、従業員にタダで働いてもらっていることと同じだからです。従業員がタダ働きしてくれる時間が少しでも多い方が、会社側に都合がいいことは言うまでもありません。

日本の有給休暇消化率は先進国中最悪のレベルで、30%とも言われています。ただ、働く側から見ても、原因は必ずしも企業側だけにあるのではないように思います。従業員全体で作りあげた「有給が取りにくい雰囲気」に対して、守りに入った従業員がその雰囲気に勝てていないだけのことも多いのではないでしょうか。

そんな有給休暇の実態ですが、これまでも会社が有給取得を奨励することはありました。主な理由は労基署に目をつけられないようにするためです。現在検討が進んでいる会計ルールの変更は、持ち越した有給休暇を企業にとっての負債として計上しようというもの。果たして、有給取得率低迷を打開する救世主となるのでしょうか。




有給休暇引当金とは

有給休暇引当金とは、すでに権利が確定している有給休暇を従業員が翌年に持ち越した場合に、翌年以降に取得される見込みの分の費用を見積もり、当期の費用/負債を計上するものです。考え方の基礎には、年間の収益と費用を対応させたいという思いがあります。給料は有給の日数分も加味して決まっているので、有給休暇の持ち越しが発生した年には、給料分以上に働いていると考えます。そのため費用を多く発生させます。多く働いている分、収益に貢献しているはずだからです。


具体的な計算例

年収500万円の従業員に毎年期首に10日の有効期限2年の有給を与える場合に、ある年度末に4日間の未消化の残日数があるとします。この4日分の価値は、年間の勤務日数が200日だとすると、500万円/200日×4日=10万円です。これが費用発生額となり、同時に翌期に使用される従業員の権利=企業の負債となります。従業員1万人の企業ではこれだけで10億円。結構な額です。実際、米国会計基準を採用してるNECが2005年度に有給休暇引当金を初めて計上した際は、220億円の費用計上がされています。

ただしこの例はその4日の持ち越しがすべて翌期に消化されると仮定した場合です。半分しか消化できずに期限切れとなってしまうと見込まれる場合には、計上額は半分となります。残り半分は会社の利益になるという発想です。


日本企業に与える影響

米国会計基準や国際会計基準では既にルール化が済んでいます。日本企業にも有給休暇引当金の計上が義務付けられた場合、どのような影響があるでしょうか。

まず考えられるのは、経営者が有給に対する考え方を見直すきっかけとなる可能性です。財務諸表に負債として計上されるのです。多少なりとも気になるでしょう。特に業績が悪い年に従業員が有給休暇を多く取得すれば利益にプラスの影響があります。取得奨励の風潮が生まれる期待は持てるかもしれません。

しかしながら重要なポイントは、消化されず期限切れになることが見込まれる日数分は計上の対象にならない点です。しかも計算結果としての有給休暇引当金の計上はされても、計算根拠である持ち越し日数や消化率の開示が義務化される可能性は低いと考えられます。会社規模に対して引当額が小さい場合にも、そもそも持ち越しが少ない優良企業なのか、消化率が低いブラック企業なのか、ぱっと見わからないという状況になる可能性が高いです。

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有給休暇引当金の導入は、有給休暇に対する意識を変える可能性は秘めています。しかしながら大きなインパクトを与えるのは、消化率の開示が義務化されない限り難しそうです。そもそも会計ルール化の目的はブラック企業の糾弾でなく、実態に即した費用の計上にあるのですから…。有給休暇引当金の計上だけでなく、消化率の開示の義務化が切望されます。

Hiroumi Kawai
ひろうみかわい/1985年生まれ。名工大・Auckland Grammer School卒。某監査法人に所属する傍ら、プライベートオフィスを運営。現在、会計士の専門性を生かした社会貢献を模索中。愛知陸協所属ランナー。
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