sharp
巨額の赤字、出資交渉の難航、そしてリストラ…間もなく創業100周年を迎えるシャープ。昨今、この日本を代表する老舗企業に関する話題が尽きません。つい先日も、台湾ホンハイからの出資価格の合意が見送られるなど、その行く先は未だ予断を許さない状況です。果たして今、シャープはどれぐらい「ヤバい」のでしょうか。そして「突然死」の兆候はあるのでしょうか。

局面局面をとらえた報道や、経営戦略についての議論は多くありますが、ここでは一旦、純会計的に財務内容を評価してみます。

まず、業績面ではやはりここ数年の売上高、利益の減少が目立ちます。

図1


2012年3月期は営業赤字といって、本業で赤字となっています。アニュアルレポートに記載されたセグメント別の業績では、やはり堺工場の売却が話題となった液晶部門の損失が大きいようです。



V字回復が見込めない赤字体質

ここで4,000億円近い巨額赤字の分析をしてみましょう。

国内テレビ需要の縮小や電子デバイス価格の大幅下落などにより売上高が2割近く減少したことにより400億円弱の営業赤字となりました。それに加え、

(1)液晶パネル製造を一時休止したことによる異常費用260億円
(2)液晶パネル事業に関する構造改革費用1,170億円
(3)税効果会計による費用1,150億円

などを計上したことにより、最終的に3,760億円という巨額赤字の計上となりました。

(1)については営業赤字の外に出すことに議論の余地はありそうですね。実質的な営業赤字はこの金額も加えて考えるべきではないでしょうか。

(2)の構造改革費用については以前にも「黒字化=業績回復」は大間違い!パナソニック赤字7700億円の真実で触れましたが、シャープの場合は液晶パネルの在庫の評価損や使用していない製造設備の維持コストなどがメインのようです。

(3)の税効果会計についても、以前ソニー最終赤字4,500億円は数字のマジックか―税効果会計という魔術で紹介しました。こちらはソニーと同じく、来年以降の業績見込みが悪化したことにより前払の税金として資産計上されていたものを一度に取り崩しているものと考えられます。

この記事にも構造改革費用は出てきます。程度の差こそあれ、日本の家電メーカーはどこも同じような問題に直面していることが分かります。

シャープの問題が深刻なのは、多額の構造改革費用を計上しながら、V字回復が見込めないことです。それなりに体力のある会社なら、膿を一気に出し切って身軽になれば翌年度以降の浮上が可能ですが、シャープの場合は浮上どころか、2013年3月期も2,500億円の赤字を計上する見込みを先日発表しました。構造改革の成果は限定的と経営陣も考えているようです。それほどまで赤字体質に浸かってしまっているのです。



このまま改革できなければ「余命3年」

次に財務面に目を向けてみましょう。「何千億の赤字!」といったところで会社規模や自己資本によってそのインパクトは異なります。過去の利益の蓄積が豊富で、何千億の赤字を出したところでビクともしない会社がたくさんある一方で、少しでも赤字を出すと途端に苦しくなる会社もあります。

シャープはどうでしょうか。財務内容の評価によく用いられる指標を挙げると、流動比率102%、固定長期適合率97%、自己資本比率24%です。

上の2つについては、一般的に安全とされる比率(流動比率100%以上、固定長期適合率100%以下)をかろうじてクリアしています。現在のところ資産と負債のバランスに重大な問題はないようです。ただし翌期の赤字が計上されれば安全水準を下回ることは確実です。

自己資本比率も特別低いわけではありません。一年前の36%からの減少は大きいものの、自己資本は6,450億円あり、翌期の赤字見込み2,500億円が計上されても直ちに債務超過に陥ることはなく、3年程度は持ちこたえそうです。ただし逆に言うと、このままでは3年で債務超過(負債が資産を上回る状態で、債務の全額返済が不可能になり、理論的に株式の価値はゼロとなる状態)に陥ってしまいます。今回の赤字はシャープにとってかなりのインパクトのある額であるといえます。

一方、キャッシュ・フロー(資金の状況)は、営業損失370億円に対し営業キャッシュ・フローのマイナスが1,430億円と大きくなっています。売上が2割弱減少している状況で、在庫が1割近く増加していたり、仕入債務は3割以上減少していたり、そのような要因が重なっていることがキャッシュの減少の原因となっているようですが、少し疑問は残ります。詳しくは別の機会に譲ることにしますが、少なくとも営業活動をすればするほど資金が減少していく状況にあることは確かです。近々予定されている借入金返済やCP・社債の数千億単位の償還の資金の捻出がネックとなるでしょう。手元資金は2,000億円を切っています。

従業員数は一年前に比べ増加しています。これはどういうことでしょうか?リストラは予定されているようなので、これはひとまず置いておきます。

以上をまとめると、シャープの財務内容は、資産負債のバランスはかろうじて正常の範囲内にあるものの、2013年3月期には危険水準に突入する公算が高く、自己資本比率も10%程度まで落ち込むと見込まれます。2~3年以内に大幅なコスト改革を実現し損失拡大を食い止めなければ債務超過は免れません。また、短期的には多額の借入金返済や社債等の償還のための資金の手当てが急務であり、報道にあるような台湾企業からの出資の履行や銀行からの支援は必須であると言えます。

自力での建て直しは難しいと考えられるため、これら支援者の変節ひとつで「突然死」の可能性もないとは言い切れません。資金的にはギリギリの綱渡りをするはずなので、少しでも予定の支援が受けられないと社債のデフォルト(債務不履行)→倒産というシナリオも考えられます。

シャープ、確かに「ヤバい」と言える水準にあるようです。いよいよ製造業の「大倒産時代」を覚悟しなければならない時期に来てしまったのかもしれません。

【参考資料】シャープ株式会社 有価証券報告書、アニュアルレポート、Business Report(いずれも2012年3月期)、各種IR資料

※この記事の続編「シャープ3,600億円つなぎ融資は足りる?足りない?」が、筆者のブログoffice hiroumi kawai に掲載されています。こちらも是非ご覧下さい。

Hiroumi Kawai
ひろうみかわい/1985年生まれ。名工大・Auckland Grammer School卒。某監査法人に所属する傍ら、プライベートオフィスを運営。現在、会計士の専門性を生かした社会貢献を模索中。愛知陸協所属ランナー。
ブログ「office hiroumi kawai