実は、かなり前から「雑誌」についての連載を始めたいとは考えていました。雑誌好きが高じて、学生時代に「勝手に」雑誌サークルをつくり、社会人になってから「勝手に」ブログマガジンの編集を始めた自分からすると、昨今の雑誌の劣化は見るに堪えないものがあったからです。

そもそも(紙媒体としての)雑誌の淘汰已む無しと考えたからこそブログマガジンにしたという経緯もあり、そんな自分には雑誌がネットに敗北していく様が、あまりにもリアルタイムに分かりすぎて、それはそれで辛いのです。そして、すっかり自信を無くした雑誌の編集者がネットに擦り寄り、結果としてますます雑誌の存在意義を無くしているんじゃないかということも――。その辺のジレンマは何かしら書き留めておいたほうが、後から見たとき面白いかなと思ったりもしていました。

その一方で、今や少数ではあるけれども、意欲的な特集や挑戦的な新創刊を行う出版社も幾つか存在しているので、そういう所は引き続き微力ながら応援したいという気持ちもありました。まあそんな軽い気持ちで、侍ランチ同様、のんびり長く続けられればいいなと。元々はその程度の動機だったのです。

ところがまあ…いきなり雑誌の劣化にまつわるとんでもないニュースが転がってきたので、それこそ緊急連載をスタートするしかないというわけで、これを栄えある第一回とすることにしました。今回は当然のことながら、後者のような「応援したい」という理由ではなく、前者で申し上げた「見るに堪えない」類の話なわけですが…。

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さて、はじめに「雑誌好き」と言いましたが、週刊朝日…というかゴシップ週刊誌は普段ほとんど買いません。自分の場合、「月刊誌好き」と言った方が適切かもしれません。週刊誌で時々買ってしまうのは「SPA!」「東洋経済」「ダイヤモンド」くらいでしょうか。「SPA!」の偉大さや、わたしが週刊誌を買わない理由については次回以降に譲るとして、とにもかくにも今回は「週刊朝日」です。

それにしても、凄い表紙ですね…ほんとに。黒バックに「ハシシタ」「橋下徹のDNAをさかのぼり」「本性をあぶり出す」ですよ。まさに衝撃的です。残念ながら、売れたでしょう。しかし、ネットメディアの「釣りタイトル」とか、そんなレベルじゃありませんよコレは。表紙の出来だけ見れば、便所の落書きがコンビニの棚に並んだと考えたほうが適切です。

中を見るとさらに衝撃的な文言が続きます。正式タイトルは「ハシシタ 奴の本性」。「ハシシタ」だけでもアウトなのに、駄目押しで「奴」ですよ。部数欲しさのために、天下の朝日がここまで堕ちるとは誰が予想したでしょうか。

奴【ヤツ】・・・囚人、奴隷、下僕、召使、いやしい、いやしいもの、という意味がある。また謙称に使う。〔説文解字・巻十二〕には「奴婢、皆、古の辠人なり」とあり、〔周礼・秋官司寇・司厲〕から「其の奴、男子は辠隸に入り、女子は舂藁に入る」を引用する。(ニコニコ大百科(仮)より引用)

「あいつはいい奴だ」などと目下の者に親愛の気持ちを込めて使われることもありますが、後ろに「本性」と付けばまあ、蔑称と思って間違いないと思います。しかもその前に付く「ハシシタ」という隠喩…完全にアウトでしょう。

何がアウトなのかは、著名人の方々がツイートされていますので、以下に掲載します。









「テレビがひり出した汚物」「正視できない」「市議員、府議員含めて"人間のクズ"」「部落」「ヒットラーより下劣」「ファシズム」「薄汚い」「ツイッター投稿の匿名世界を分析するのはうんこにも飛びつく評論家に任せる」などという記述の酷さもさることながら、決定的に問題なのは、本連載では橋下氏の「政治手法を検証するつもりはな」く、あくまでも「DNAから本性をあぶり出す」方針であることが明記されているということです。凄まじいまでの卑劣さ…そして無知。政策論争自体を否定する、歪んだ血脈主義と部落差別意識が記事中の至る所で露呈されています。

ちなみにその恐るべき思想はパブリッシュデザインにまで及んでおり、DNAを思わせる六角形の黒いつながりを意識した確信的なもので、そういう観点で見ても、これまでのあらゆるメディアの常識を超越した非人道的な表現であることに疑う余地はありません。

これについては「品性下劣」などと品格で論じるのも、もはや生ぬるい状況だと考えます。今回の朝日新聞グループによる出版行為は、わが国では今世紀初の「大マスコミによる人権侵害」であると断言して差し支えないのではないでしょうか。

これを受けて、「週刊朝日」は橋下氏に早くも「深くおわび」をしたらしく、次号で謝罪文を掲載するとのことですが、このスピードで腰砕けになる意志薄弱さ…どこまでも信用に値しない下種集団ですね。この、元々正面から闘う気も無いという軽率極まりない態度自体、会社ぐるみで「政治家批判なら血による人格攻撃も許される」と考えていた何よりの証左でしょう。

まさか朝日がその品格と報道の適正さにおいて2ちゃんねるおよびブログメディアの下を潜ることになるなんて…少なくとも3年前じゃ考えられなかったことです。

ちきりんさんが言う通り、おそらく週刊朝日の廃刊はもちろん、朝日新聞社の存亡がかかった問題に違いありません。

ちなみに渦中の朝日新聞出版ですが、ついこの間もAERA(これも週刊誌ですね)でこのような表紙を恥ずかしげもなく公開して、批判の矢面に立たされていたのですが、憶えている方も多いのではないでしょうか。

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当時、週刊誌の復権を賭けた(と思われる)ポストの表紙と比べられネットユーザーから失笑を買っていましたが、今回はこのような生易しい対応では済まされないでしょう。これは政治思想の問題ではなく、基本的人権の問題なのです。公権力と対峙すべきメディアが最も注視すべき問題だからこそ、「週刊朝日」編集部ならびに朝日新聞グループがしでかした罪は重いのです。今後、公による厳格な報いを受けることを大いに期待しています。

奇しくも第一回から、雑誌の劣化と凋落を決定的にした「雑誌の断末魔」と呼ぶに相応しい一冊を紹介することになってしまいました。次回はどうにか雑誌の明るい話題が取り上げられることを願って止みません。

週刊朝日【しゅうかんあさひ】
朝日新聞出版(2008年3月までは朝日新聞社)発行の週刊誌。1922年に創刊された、サンデー毎日と並ぶ日本の老舗週刊誌。発行部数は約21.5万部。編集長・発行人は河畠大四氏。毎週火曜日発売[2012年10月現在]

変 周長
へん・しゅうちょう/1981年愛知県生まれ。本誌編集長、クリエイティブマネジャー。
Twitter ID: @_CAZANA