NECが発表した4-9月決算は4年ぶりの最終黒字でした。これは、本業できちんと利益を出し、本業以外で目立った損失を計上しなかったことを意味しています。本業での黒字は、ITインフラ系部門の収益性向上が大きく寄与したといえるでしょう。

しかしながら、今回は最終黒字の裏にある、切り離された「かつての本業」半導体部門に関する会計スキームを紐解いてみたいと思います。

NEC本社

半導体部門が抱える "莫大な赤字" の行方

かつて隆盛を誇っていたNECの半導体部門は、これまで子会社のNECエレクトロニクスが受け持っており、同社の決算はグループ財務諸表にそのまま合算されていました。

2010年4月に同社を三菱電機と日立製作所の合弁会社ルネサステクノロジーと合併させ、ルネサスエレクトロニクス(以下ルネサス)と改名、グループの財務諸表から切り離しました。

3社の合弁会社という形になり、NEC単体のグループ企業とは見なされなくなったため、決算がそのままNECグループの財務諸表に合算されることはなくなりました。

とはいえ、依然3割超の出資比率であったため、ルネサスの損益は出資比率に応じる形でNECの財務諸表に反映されていました。これは会計的には「持分法」と呼ばれる方法で、子会社ではないが影響力を持っている会社についてはグループの財務諸表に損益のみを反映させる一般的な方法です。

この時点では、確かに半導体事業について本体から切り離しているものの、赤字を出せばグループの数値に反映されるため、「連結外し」という言葉からイメージする悪質な処理とは性質が異なるものでした。

ただし、ここからややトリッキーなスキームが始まります。

NECはこのルネサス株式を、企業年金の原資にするために拠出したのです。名義上の株主所有者は信託銀行となり、NECの出資比率は当初の35%から2011年2月に16%に、次いで2012年5月に3%にまで低下しました。

株式の大半について所有者でなくなったことにより、ルネサスの赤字がNECの決算に反映される割合が激減したのです。

実際に持分法による損失は、前々期は380億円もあったのに、前期は120億円、当期は半期で9億円しか計上されていません。この推移は年金への拠出時期とそのまま重なります。

持分法を適用して損益を取り込んでいる関連会社は50社以上あり、取り込んでいる損益は全社の合計であるため単純な比較はできないものの、ルネサスはそのうちかなりの割合を占める最大の会社であったことは間違いないでしょう。

結果、毎年垂れ流し続けていたルネサスの赤字を、ほとんど決算に反映させないようにしたのです。

NEC 業績 推移
図:NECの業績の推移(連結)

実質的な損失先送り…ルネサスという時限爆弾

ただし、決してNECはルネサスを完全に切り離せた訳ではありません。問題はNECの企業年金の原資に大量のルネサス株式が充てられているということです。当然、ルネサスの株価が下がれば年金の原資が目減りすることになります。

これが厄介なのは、年金資産の目減りは決算への反映が遅れることです。

現行の会計基準では、年金資産の価値下落による積立不足は、時間をかけて徐々に処理して行く仕組みです。例えばNECでは、積立不足発生の翌年より13年をかけて処理しています。つまり株価の下落は翌年にその1/13が初めて決算に反映され、すべてが反映されるのは13年後なのです。

当然その間に株価の下落が続けば、決算に反映されない評価損はどんどん膨らんでいくことになります。自己名義で持っていれば毎期の赤字の累積は即座に決算に反映されるにも関わらず、です。

年金原資への拠出分についても、依然実質的な議決権はNECが有しており、議決権の30%超を支配していることに変わりはありません。実質は変わっていないのに会計処理だけが大きく変わったことになります。

仮にルネサスのこの9月期の業績予想(決算発表は明日10月29日[月]の予定)である約1000億円の赤字の35%を決算に反映させれば、間違いなくNECは最終赤字に転落するでしょう。

一見、不採算部門を切り離し身軽になったように見えますが、水面下では未だに半導体が足枷になっているということです。これを振り切るには、まだまだ本業の業績回復は足りないと言わざるを得ないのが実情のようです。

Hiroumi Kawai
ひろうみかわい/1985年生まれ。名工大・Auckland Grammer School卒。某監査法人に所属する傍ら、プライベートオフィスを運営。現在、会計士の専門性を生かした社会貢献を模索中。愛知陸協所属ランナー。
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