年金手帳
公的年金・企業年金問わず年金制度に逆風が吹き荒れているのは今に始まったことではありませんが、近頃はその中でも、いわゆる「3階部分」である厚生年金基金に対する風当たりが特に強くなっているようです。言うまでもなく、毎年の赤字続きで積立不足が累積し、どうにもならなくなった基金が増え続けているからです。

ところが、運用難が騒がれている一方で、厚生年金基金に関連して数十億円~数百億円規模の特別利益を計上する企業もまだまだ多数存在します。この9月にも、味の素が277億円の特別利益を計上し、ちょっとした話題になりました。なぜこのような一見「不自然」なことが起こるのでしょうか。

この謎のカギは、厚生年金基金の特徴である「代行部分」の計算方法にあります。

代行部分とは、企業もしくは企業連合主体の厚生年金基金(企業年金=3階部分にあたる)の運用において、厚生年金(公的年金=2階部分にあたる)の資産の一部を預かって運用している部分のことです。企業にとっては企業年金と合わせて運用することで、運用の幅や収益の増大が見込めることがメリットと考えられていました。

厚生年金基金 体系図

しかし年金資産の運用が苦しくなってくると、本来負担する必要のない債務を背負うこととなり、企業にとっては重荷になるばかりです。平成14年から代行部分を国に返上することが認められており(これを代行返上といいます)、これ以上の負担増を避けたい企業は国へ返上することができるようになりました。

つまり、この代行返上の過程で利益が計上できる仕組みになってしまっているのです。

それは国へ返すべき金額の計算と、企業会計上の年金債務の計算の違いからくるものです。概して後者の方が大きく算定されているため、精算時に利益が出るのです。やや複雑な話になってしまいましたが、企業会計の方が現在までの金利低下をきちんと織り込んでいるため、将来の支払額が同じだとしても、現在の価値に置き直した場合には債務が大きく計算されるのです。

制度開始当初は、トヨタの2千億円超を皮切りに、多額の特別利益を計上する企業が相次ぎました。

経常的な赤字運用が続く現在でも、代行返上時には利益が出る場合が多く、現在でもその状況は続いているのです。ただしこの9月に代行返上に関連して利益を計上した味の素も、企業年金全体で800億円ほどの積立不足(前期末、企業会計ベース)が発生しており、代行部分についてもマイナスであったと考えられます。債務を積み過ぎていた分を解消したことにより一時的に利益が出たというのが実態に近い表現です。

これもまた、右肩上がりの成長のみを想定して作られた年金制度の歪みの一つと言わざるを得ません。

ちなみに、自ら他の企業連合の厚生年金基金の運用に携わったり、その他年金資産の運用を手がける「年金のプロ」である大手信託銀行(三菱UFJ信託、三井住友信託等)はとっくに自社の年金基金の代行部分の運用を諦めています。果たして、この事実は何を意味しているでしょうか…。

◆参考文献
財政難の厚年基金、5年で解散 厚労省改革案 10年後に制度廃止」日本経済新聞/2012年11月3日朝刊
プレスリリース」味の素HP/2012年10月15日

Hiroumi Kawai
ひろうみかわい/1985年生まれ。名工大・Auckland Grammer School卒。某監査法人に所属する傍ら、プライベートオフィスを運営。現在、会計士の専門性を生かした社会貢献を模索中。愛知陸協所属ランナー。
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