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東京商工リサーチが今月発表した調査報告によると、企業の人件費はリーマンショック前の水準に戻らず抑制が続いているとのことです。この調査の対象は電気機器、輸送用機器メーカー100社の製造に従事する従業員への人件費(※)です。

※厳密にはこれを「労務費」といいます。ただし労務費は、製造業の管理部門を含めた人件費総額の多くを占めており、この推移はほぼ企業全体の人件費の推移を表しているといえるため、本稿では便宜的に人件費と呼びます。




リーマンショック前の好調期との比較で人件費が抑制されている状態は誰もがイメージしている通りだと思います。対象100社での2008年3月期から2012年3月期の減少幅は約10%となりました。

ただしその間、売上高が17%低下しているため、売上高に対する人件費の比率は6.5%から7.7%に上昇しています。

ここ2年間の人件費は徐々に上昇しているように見えます。しかし上昇率はわずか3%(2010→2011)、0.6%(2011→2012)です。しかもその間社会保険料の料率は上昇しており、人件費の上昇は保険料の上昇がほとんどを占めると考えられます。従業員への支払の上昇はないに等しいのです。

主要な保険料である健康保健料と厚生年金保険料の推移を以下に示します。実際には企業はこれらの半分を負担し、負担額は人件費に含まれます。他の保険料(介護保険や雇用保険等)の料率も同様に上昇しています。

この上昇速度は監査をしていても驚くほどです。毎期毎期、各企業は前期の保険料より大幅に増加した金額を計上しているのです。


社会保険料率の上昇
※健康保健料は全国健康保険協会管掌健康保険料「介護保険第2号被保険者に該当しない場合」の東京都の料率
※厚生年金保険料は「一般 (厚生年金基金加入員を除く)」の料率


ここ2年間の人件費上昇は、一時期の景気上向き予測を反映し給料を下げなかったといったほうが相応しいのではないでしょうか。現在では欧州に加え中国、さらにはアメリカでも先行き不透明感が強まっており人件費の抑制圧力は高まると考えられます。

ただでさえ売上高に占める人件費の割合は高止まりしているのですから、売上高の上昇が見込めなくなれば人件費の削減に着手するのは自然なことと思います。

これらの保険料は、有価証券報告書には記載されませんが人件費の約1割~2割を占めています。冒頭のグラフのように売上高が伸び悩む中、経営努力で人件費総額を維持しようとしても保険料が増額しているため従業員の給料は減少してしまいます。

さらに個人が受け取る段階で上記保険料の半分が天引されます。手取額の維持には個人の給与額そのものが上昇する必要があります。

社会保険料率

給与水準を維持するには、企業がある程度の人件費上昇を受け入れるか、人員削減しか道はありません。保険料率の上昇は地味に、しかし確実にあなたの給料を蝕んでいます。昨今議論されている消費増税が、この上昇を食い止めるためのものだと言われていることも、あなたがサラリーマンなら覚えておいた方がいいかもしれません。

Hiroumi Kawai
ひろうみかわい/1985年生まれ。名工大・Auckland Grammer School卒。某監査法人に所属する傍ら、プライベートオフィスを運営。現在、会計士の専門性を生かした社会貢献を模索中。愛知陸協所属ランナー。
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