
単純に比較はできませんが、会計監査の観点では完全に東電に軍配があがります。理由はただ一つ。シャープがこの9月期の決算書に「継続企業の前提に関する重要事項」を掲載していることです。
「継続企業の前提に関する重要事項」とは、事業の継続を難しくするような事項のことです。例えば売上の急な減少、継続的な赤字、ブランドイメージの毀損などです。
この「重要事項」が存在する場合で、かつ対応策を実施しても解消に「不確実性」がある場合には「継続企業の前提に関する注記」が決算書に記載されます。
例えば、赤字が続いているが、大規模なリストラ効果で黒字化が確実に見込まれるような場合には「注記」は必要ありません。逆に、例えば銀行からの融資により「重要事項」の解消を目論んでいるが実行に「不確実性」が残る場合には「注記」が必要となります。
この「注記」の記載がある企業は通常倒産予備軍とみなされ、実際今年倒産した上場企業にはすべてこの「注記」が付されていました。
東京電力は原発事故直後の23年3月期以降、この「注記」を記載していました。事故直後の23年3月期は損害責任の全容が見えず、財務状況を悪化させる可能性があるという「重要事項」があり、今後の賠償の枠組みは国会の採決によるという「不確実性」がありました。
また、24年3月期にも、徹底したコスト削減によっても燃料高によるコスト増を補うことが困難であるという「重要事項」が存在し、電気料金値上げを行うつもりであるが、機構による株式の引受等が「不確実」であるため注記を行っていました。
しかし、9月以降の電気料金値上げで財務状況は改善され、解消賠償の大枠が見えてきたことを理由に、24年6月期以降は「重要事項」はないとしています。
一方、シャープは24年9月期に、継続した赤字を理由に「重要事象」を初めて開示しました。ただしリストラや設備売却、銀行の融資枠確保などで事象の解消に「不確実性」はないとし、「注記」には至っていません。ちなみに基準が求めている将来の見込期間は1年間であり、「注記」がないといえども、1年超の存続に不確実性がないと言い切っているわけではありません。
「重要事項」がある会社は、東証上場企業のわずか1.7%に過ぎません。その中に形式的に入ってしまったシャープと、抜け出した東京電力。こうして並べてみると、会計基準に照らせば、シャープのほうが安全でないことは明らかです。さて、世間の感覚と比べてどうでしょうか。
Hiroumi Kawai ひろうみかわい/1985年生まれ。名工大・Auckland Grammer School卒。某監査法人に所属する傍ら、プライベートオフィスを運営。現在、会計士の専門性を生かした社会貢献を模索中。愛知陸協所属ランナー。 ブログ「office hiroumi kawai」 |